相合傘/ギン乱



現ぱろ。


曇天。重く重く、愚鈍にたれ込めた雲が天を覆う。今にも雨が降りそうな、水を多分に孕んでいる灰色は切れ間無く太陽を隠していた。雨の匂いを含んだ風が鼻を擽る。むわっとする様な空気が髪を掠っていった。もう少しで雨が降りそう。マンション迄もつだろうか。白線の上を歩く。一歩一歩前へ前へ。高いヒールでキャットウォーク。13pのヒール位履きこなしてみせるわ。両腕を広げてバランスをとった。黒と白だけのモノクロームが眼下で揺れる。今なら空だって飛べる、そんな気がした。

(でもきっと)

この道は永遠には続かない。マンションまでさえも白線は伸びていない。その時が来たら私はどうするのだろう。どうしようか。未だ白線の上を辿っている。雨の匂いはぐんと強く為った。本当は雨の匂いなんかじゃなくて、アスファルトの臭い何だと誰かが言っていた。余分な情報。

(あ、)

ぽつり、と空から落ちてきた雫が黒い地面に円を描く。ぽたり、ぽたりとその数を次第に増やして言った。薄暗い天を見上げる。

(雨、降っちゃった)

マンション迄走ろうか。それとも諦めて濡れて帰ろうか。そう思考が空転している間にも雨脚はどんどん強くなる。

「何しとん、乱菊」

不意に私に降っていた雨が止んだ。首だけを捻って後ろを見遣れば、傘をさしたギンが立っている。そのビニール傘は、ギンにでは無く私の頭上に掲げられていたけれど。

「濡れるで、入り」

そう言って私の腕をぐい、と引く。足先が縺れて若干転けそうに為ったけどギンはそれすらも支えてくれた。相変わらず、細いこの身体の何処にそんな力があるのだろう。その時私を抱いていない方の腕に、見覚えのあるビニール袋が提げられているのに気がついた。近所のスーパーの袋。中には色々、なんやかんやと入っているようだ。

「今日の晩ご飯何?」

私の視線に反応して、ビニール袋を軽く持ち上げたギンに質問する。ご飯はいつもギンがつくってくれている。私の料理は下手ってレベルじゃないくらいにやばいから。ギンは美味しい、って言ってくれるけど前修兵に食べさせたら寝込んで仕舞った。ギン曰、私の料理はちょっと特殊なんだそうだ。僕はもうなれたから逆に美味しいけどな、と何処か遠い目で言われたのは何時だったか。

「マグロのカルパッチョ。乱菊好きやろ?」

「お酒があると最高ね」

軽く微笑んだギンに、私も微笑み返して雨降る中を相合傘でマンションへと急いだ。



(いつのまにか踏み外す白線)






ギンと乱菊は大学生くらいで同棲してる的な。


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