首に口づけた感覚/藍ギン

死ねた。
暴力表現。














「何故、崩玉を奪おうとしたんだい」

藍染の指先が、僕の頬を撫ぜた。ゆっくりと這うようなその動きが気持ち悪い。つ、と沿えられた右手が無理矢理に僕の顔を上へと向かせた。硝子玉の様な鳶色が睨むように此方を見据えている。顔をあげたことに連れられてぎい、と頭上で両の腕を締め上げている鎖が鈍い音を立てた。皮膚が食いちぎられた感覚がした。素肌に食い込む鉄の味はもはや僕の物なのか鎖のものであるのかわからない。全身が悲鳴をあげていた。

「君は、サロメには為れない」

「は、」

そう吐き捨てる様に言った藍染が何故か酷く小さくみえて、鼻で笑ってやった。すると、僕のその態度を彼は気に入ら無かったようで、容赦無く頭を蹴られた。けれどそれすらも彼が何かに怯えている証の様に思えた不安で仕方がない幼い子の様に、手当たり次第周りを傷つけて、然し彼は彼自身は大人のつもりだからその感情に名を付けたくは無いのだ。他人に見せたくは無いのだ。だから露見することを酷く恐れて、それを隠す為に人では無いように振る舞う。心等とうの昔に棄てたのだと嘯いて、冷たく笑うのだ。

「いくら君が見事に踊ってみせても、これはあげられない」

そう言って、態とらしく崩玉を掌で弄んでみせる。藍染の手の内で魂の結晶がきらきらと瞬いた。

「あんたが、ヘロデ・アンティパスというわけですか」

もし、自らをヘロデとするならばいずれ国土を失い死に至ることも藍染は解っているのだろうか。自らの言いたいことが伝わったのが嬉しかったのか鳶色の瞳に喜色が混ざる。僕はそれを嘲る様な目で見据えた。

「馬鹿な、御人」

神話しかり、この人しかり、何故王様は愚かな人ばかりなのだろう。呆れる迄の孤独症。誰もあんたを愛しはしないし、あんたは誰も愛せない。理解者が欲しいだけの憐れな御人。僕の瞳に潜む憐れみを見つけて藍染の無表情が微かに歪む。

「可哀相な、藍染さん」

僕がそう吐き捨てた刹那、藍染の手が頬を張った。ばちん、と見事な音は虚しい迄に白い部屋に良く響く。既に紫に変色していた肌はもうこれ以上色は変わらないだろう。だが痛みだけは確かに脳髄を犯す。

「残念だよ、ギン」

君は僕を良く理解していると思ったのだけれど。藍染はそう言って斬魂刃の柄に手をかけた。かちり、と鉄の鳴る音がする。僕の瞳は藍染を見据えた侭離さない。

「さようなら、ギン。僕の最初にして最後の副官」

引き抜かれた白刃が、月光にあたってぬらりと輝いていた。藍染がそれを振り下ろす。何処か焦った様なその鳶色の瞳に僕は呵呵と笑った。



(出来損ないのサロメ)





サロメの話って良く解らないです。



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