薄っぺらな考察/東仙+ギン






「何してはるん、東仙さん」

気の遠くなる様な白い廊下の先に市丸がいた。常と同じ張り付いた笑顔で此方を見ている。彼の着物も肌も髪色も白過ぎる程に白くあるのに何故か市丸の存在がまるで異質のものであるかの様に浮いていた。


ふと初めて市丸に出会った日のことを思い出す。百年以上も前のことだと云うのにあの時に感じた感覚は今でも忘れることが出来ない。

自身が初めて市丸と出会ったのは藍染の私邸の庭木がその紅の葉を大地に落とし始めた頃だった。その頃は未だ藍染も五番の長ではなく、また東仙もただの九番隊の席官であった。その日は非番で、藍染の私邸へと呼ばれていた。何の用向きで呼ばれたのかは忘れて仕舞ったが、恐らく虚の実験かそれに類する何かだったと思う。藍染は唯一の仲間と言える東仙すら滅多に私邸へとは招かなかったから珍しいな、とは思った気はするが特に思うことは無かった。単に都合の問題だろうと自身の中で結論付けて太陽が完全に中点へと達する前に藍染の私邸を訪ねた。そして、そこで藍染宅の門を開いて自分を迎えいれた少年こそが市丸だった。およそ藍染が開けるものだとばかり思っていた己は、見知らぬ第三者に酷く驚いた。明らかに、初めて感じる霊圧。自分の知る藍染の交友関係にも、勿論自分の友人にもいない人物の者だった。

「君は、誰だ」

す、と指先を鈴虫の柄にかけた。内側から門を開いた以上、目の前の少年が藍染の知人であることはわかっていた。が、何か厭なものを感じ取って無礼を承知で、尋ねた。

「ああ、良く来たね。要、」

しかし、少年が答るよりも早く何時の間にか傍まで来ていた藍染が口を開く。さあ中へ、と云うかの様に門の前から半歩擦れると東仙を廷内へと招き入れた。何時来ても丁寧に、しかし控えめに手入れされている庭は藍染の外面をその侭に映している様にみえる。勿論屋敷内も高価ではあるが品の良い調度品で揃えられていた。どうにも借り物の様なこの空間が東仙は好きでは無かった。廷内全てが、まるで藍染の斬魂刃の能力であるかの様に感じられるのだ。

「今日は君にこの子を紹介しようかと思ってね。…ギン、」

「市丸ギン言います、」

そ、と差し出された手を握り返して驚愕した。感じる霊圧の雰囲気から子供であるだろうとは思ってはいたが、此処まで幼い子だとは思っていなかった。片手でも、十二分に包める程の小さな手。名乗った時の変声期を未だ迎えていない高い声。そして、更に驚かされたのは彼の名前だった。市丸ギン、と云えば院を僅か一年で卒業し早々に席官入りしたと云う天才だ。未だ子供である、とは聞いていたが此処までとは思わなかった。この小さな手が本当に刀を握り、それを振り下ろすのだろうか。

「東仙要だ、」

手を握り返すと、目の前の少年−市丸がにい、と笑ったのがわかった。ぞく、とその笑みに背筋に何かが走る。

「宜しゅう、東仙さん」

そして、藍染がこの子供を仲間へと引き入れた理由が解った気がした。己の目は光を映さない。その事実に同情を向けられた事はあったが東仙自身は、何等構いはしなかった。目で見えぬと云うことに不便を感じた事は有っても、それを理由に他人に遅れを取ったことはない。生き物は、何か一つの器官が駄目に為って終えばその代替に他の器官が発達する。例えば聴覚が、例えば嗅覚が、例えば霊圧を探索する能力が。それらが今確かに伝えているのだ。目の前の少年の異質さを。二番の様に冷徹な訳では無い。十一番の様に血潮に逸っている訳でも無い。深い井戸の底の様に見透かすことの出来ない何かが市丸を形作っていた。どろり、とした得体の知れないものが蛇みたいに彼に絡み付いている。

「どないされたん?」

市丸の高い声には、と我に帰った。そんなに長い間呆けていたのだろうか。僅かに心配そうな色を含んだ気配で此方を窺っているのが解った。それすらも、何処か気持ち悪い。表層を、ざらりと舐められたような心地に陥る。

「いや、大丈夫だ」

平然を装った声音は果たして市丸に通じたか。多分、藍染には、通じて等いないのだろうことは解っていた。その証拠に先程から彼の霊圧は微かに楽し気に揺れている。そうして、ふと気が付いた。市丸の底知れない不気味さを、蛇の様な悍ましさを、全部藍染が気に入っていると云うことに。何処が何如、彼に気に入られる要因と為ったのかは果たして解らないが、彼は藍染に気に入られて仕舞ったのだ。それは恐らく自身の様に役に立つと云う理由からでも藍染に賛同していると云う訳からでも無い。市丸が役に立た無いと云うことは勿論無いだろうし、藍染の計画に反対している訳でも無いだろうが東仙にはそれらとは全く関係の無い理由から市丸は藍染に気に入られたのだろうと思った。そして、それが多分。

(この少年に潜む得体の知れない何かか、)

出会った瞬間にして、東仙は藍染の中における市丸と己の立ち位置の違いを悟った。そしてそれは今でも何等変わったと思うことは無い。ちらり、と盲の眼で目の前の市丸を見据える。そう、仮に藍染の言葉を借りて憧れは理解から最も遠い存在だとして。対極で、対角線の端と端にあるものなのだとしたら。きっと市丸は理解と云う処に一番近い生き物なのだろう。完全にその点上には無くとも、市丸と理解の間には他のどんな死神も虚も人間も障壁も居ない。彼は藍染に憧れ等片方も抱いていない様に見える。だからこそ、藍染は市丸に自由を許すのだ。常の毒を含んだ、慇懃を装った口調で飄々と嘯く市丸を藍染は格別咎めはしない。ただ、その身に纏う霊圧を微かに震わせるだけだ。本当に微々たる揺れなので、どんな風に藍染の感情が動いたかなど、知る術もないけれど。或は盲たこの目でければ表情から窺い知ることができたのかもしれない。可能性は限り無く低いのだろうと思われるけれども。

(結局は、私自身があの方に憧れを抱いている限り)

理解すること等不可能なのだ。それは恐らく空を解しようとする様なものであり、天を見極め様とすることと同じなのだと思われた。

「東仙さん、何してはるの」

盲の目で見据えた先の市丸は、あの頃から何一つ変わらぬ何かを纏っておりそのことが酷く恐ろしくあると云うのに何故だか、微かに安堵にも似た感情を覚えた。



(不変にも似た安っぽい事実)





東仙さん好きですけれど、
何考えてるのか解らないから書けないのです。


一護が藍染は寂しかった的な発言してたし、
断界の中とかみたいに藍染に軽口叩くギンが、多分藍染は大事だった気がする。

そして、乱菊の為ではないギンになら殺されても良いとか思ってるのが拙宅の藍染さん。






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