おわりかた/ギン乱
死ネタ。
何故だろう、海に溺れている気がする。乱菊の声が聞こえない。肉付きの良い、妖艶な唇が動いているのは見えるのに。まるで、硝子を隔てた様に音が無い。
「 」
透明な雫が、乱菊の空色の瞳が瞬く度に滴り落ちる。零れ堕ちた。何故、乱菊が泣いている。裏切った僕を罵れば、詰れば良いのに。
(君は未だ、僕の為に泣いてくれるのか)
二人で暮らした揺り篭の様な、子宮の様な小屋にいた時のように。僕が傷付いたら、泣いてくれるのか。澄んだその声音で嗚咽を上げて、白いその喉を悲鳴で震わせて。
ならば。そう、ならば。彼女の涙を拭うのは僕の役目。心配無いと、怖いもの等何処にも無いんだと、慰めるのは僕だけの特権。それこそ、彼女と出会った昔から。
(乱、菊)
声を掛けようと喉を震わせてみたが、何故だか音を伴わない。代わりに、かひゅ、と引き攣った息が唇から零れた。口内を鉄の味が満たす。含みきれなく為った血が口の端から漏れ出た。
(そうか胸を貫かれたのだった)
藍染に、その刃で。仕方がないと、代わりに彼女の涙だけでも拭ってやりたいと思って右腕をあげる。あげようとした。あげたかった。しかし、僕の意に反して腕はあがらない。いいや。そもそもが腕が無かった。
(ああ、腕も、もがれたのか)
崩玉を掴もうとして、乱菊の魂を取り返そうとして。右腕迄も奪われて仕舞った。
どうしよう。どうすれば良い。僕にはもう彼女に優しい言葉を掛けることも、涙を拭ってやることも、出来ない。
「 ぎん 」
何故か乱菊に呼ばれた様な、そんな気がした。
(そうして僕は、この思いを抱いて死ぬ)
ギンの最期から。
でも生きてるって思いたい。
例え話の進行上ありえないとしても、信じてたっていいじゃない。
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