哀寂/ギン乱

空に、手を翳してみる。指の隙間から覗く突き抜ける様に遠い青空に何故か酷く気持ちを揺すぶられた。何かに焦れるような、急かされているような焦燥感が胸を締め付ける。草原に寝転んだ侭、心だけはまるで雪の中に閉じ込められた様だった。

「ああ、あかん」

急いては事を仕損じる。もう、百年以上も彼に従ってきたのだ。今更一年、二年、何も変わりはしない。着実に確実に、彼を仕留める機会を伺って、そして、殺す。蛇の様に。

「何が、あかん、よ」

突然頭の上に降って来た声に身体がびくり、と跳ねた。この声は。

「乱、菊」

今の今迄、全然気が付かなかった。隊長だと云うのに、気が緩み過ぎていたか。それとも、彼女の霊圧は余りにも自身に慣れすぎていて気が付け無かったのか。前者ならば、気を付けねば為らない。彼の人は何時何処で見ているかわからないから。警戒しなくてはいけなかったのに。後者だったら警戒しなくてはいけないと云う結果は同じなのに。何故か、どうしてか、嬉しさが込み上げる。自分の中に乱菊は未だちゃんと存在している。あの雪の日の侭止まった時間は動いてはいない。

(未だ僕は大丈夫、)

「たいしたことやあらへん、」

「?」

案の定、見上げた先の乱菊は疑問を顔に出していた。その仕種も、昔と何等変わり無い。外見は幾ら成長していても、内面の奥深くは同じ。

(本当は、君と離れとうない)

自分を見下ろしている乱菊の手をぐい、と自身の方へ掴んで引き倒した。

「きゃ、」

可愛いらしい短い悲鳴を引いて、乱菊は僕の上へ倒れた。抗議の声を上げようとした乱菊を、抱きしめることで制す。

「堪忍な、」

ぽつり、と弱々しく呟いた言葉は彼女の耳に届いただろうか。きらきらと輝く乱菊の金糸越しに仰いだ空は酷く青くて、まるで僕を責めている様だった。


(そこには何もなかった、)
(何も出来ない僕を除いて)





一護達が来る少し前な話。
何如しても、幸せなギン乱がかけません。









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