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「赤司さんもそう思うっしょ」

如何にも今時の若者、といった雰囲気を醸し出す男は高尾和成。年は二十歳を少し過ぎたくらいだろうか、よく喋りよく笑う男だ。職業については曖昧に誤魔化された。

「高尾、赤司に無茶ぶりするんじゃないのだよ」

その隣に座るのが高尾と同室の緑間真太郎という男。年齢は恐らく高尾と同じか、少し高いくらい。綺麗に整えられた緑髪に、縁のある眼鏡。真っ直ぐに延びた背中はまるで定規でも入っているのかと思う程だ。職業は医師だと名乗った。

「構わないよ、真太郎。実に興味深い話だ」

ワイングラスを片手に応えるのは高尾に話を振られた男、赤司征十郎。真っ赤な髪に左右で色彩の違う瞳、彼は火神でも知っている程の相手、カジノ王と名高い男だった。火神はその隣、上品に食事を口に運ぶ水色の髪の少女へと視線をうつす。昨日火神が会ったー不運も転んだらところを目撃して仕舞ったー少女、赤司テツナ。彼女はディナーが始まってから、誰とも会話する事は無かった。

「もう、赤司っちも高尾っちも難しい話ばっかしすぎッスよ」

更にその隣でぷくり、と頬を膨らましたのは黄瀬涼子。子供染みたその仕草も、女優ばりに美しい彼女がすればどこか決まって見える。年は二十歳くらい。彼女が明言した訳ではないが、マフィアかなにかの愛人だろうと火神は推測した。根拠はしいていうなら勘、黄瀬のまとう空気が「そういう」感じだったのだ。

「失礼だろ、黄瀬」

笠松幸夫がむくれた黄瀬をたしなめにかかる。年は三十路に乗り上げた頃だろうか、がっしりと筋肉のついた体つきからしてマフィアの派遣した黄瀬のボディーガードというところだろう。

「良いじゃねえか、笠松サン。あの二人の話は私もサッパリわかんねぇよ」

おおよそ淑女のする事ではない、乱暴な言葉使いで唇を歪めて笑う彼女は青峰輝。年は二十歳後半というところだろうか、群青のチャイナドレスに身を包む彼女からは闇の世界の臭いがした。大方チャイニーズマフィアの幹部、またはご令嬢さん、だろうと推測する。

「大姐、お行儀が悪いで」

糸目の男、今吉翔一が青峰に話をふる。笠松と同じくらいの年齢で、見るからに頭脳派、という外見をしていた。訛りのある口調で喋る彼は、青峰のお目付け役か何かだろう。

「まだ次の料理こないのー」
「もう少しだと思うよ、アツシ」

そして、タツヤと連れの紫原。二人は資産家とその付き人なのだといった。




円卓についた12人を改めて見回す。中々に癖のありそうな連中ばかりだ。

(ざっと見ても、マフィア関連が二人にカジノ王、上院議員。資産家、医者あたりがまあましか…)

怪しいのは青峰。次点に黄瀬、赤司。けれど他も引けを劣らずに怪しい。

「すまないが、そろそろ僕たちは下がらせてもらうよ」

赤司がそう言って立ち上がった。腕時計に目をやれば11時半を回っていた。テツナを伴いドアの向こうへ消えていった赤司達を追う様に、一人ふたりと皆が席を離れていく。火神もそれに倣ってレストランを後にする。出ていく瞬間に中を振り返れば、青峰、今吉、黄瀬、笠松の四人はまだ席についてワインを楽しみ談笑に花を咲かせていた。一瞬中に残り注意深く話を聞くべきかと思ったが、ドアを半ば潜った手前引き返す事も出来ずに、そのまま部屋へと帰る事にした。







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