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午後八時少し前。同じ14階にあるレストランに向かうためドアを開くと、廊下に二人の男がいた。一人は紫の髪を男にしては長く伸ばしていて上背は火神よりも高い、恐らく2mは越えているだろう。もう一人は黒髪で顔の半分を隠すように覆った美丈夫で、火神よりも10pばかり低かった。そうしてなにより、火神はその二人目の男に見覚えがあった。
「タツヤ!?」
「タイガかい!?」
男の名は氷室辰也、小さい頃、両親が殺される前まで住んでいた町で友達だった奴だった。引っ越してからは連絡をとることもなく、疎遠になっていたが、まさかこんな場所であうとは思ってもいなかった。これが世間は狭い、というやつか。
「ねえ、室ちんこいつ誰」
「子供の頃近所に住んでいた奴だよ、アツシ。ああタイガ、こいつは紫原敦。見た目はこんなんだけど良い子だよ」
間延びした独特の口調で此方を指さした男ー紫原はタツヤに言われて不審そうにこちらを見回した。何が気に食わないのかはわからないが、此処で不和を生むわけにはいかない。昔の自分なら考えもしなかったことだが、刑事には時に演技力も必要だ。
「室ちんの友達?」
「ああ、そうだ。最も会ったのは子供の頃以来だけどな。紫原ったっけ、宜しくな」
笑顔をつくり差しだした俺の手を紫原はお座なりに握り、軽い握手をすると俺たち三人は他愛ない話をしながらレストランへとあるきだした。
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