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火神はディナーパーティーを終えた翌日、ロサンゼルスの港に停泊しているアドラー号に乗り込んだ。ロイヤルスイートの船券で案内された場所は一流ホテルと紹介されても信じて仕舞うほどに豪華だった。周りをキョロキョロとしてしまいそうになるのを押さえて、乗船の際に貰ったカードキーをエレベーターに差し込む。火神の今の役回りは豪華客船に乗った金持ちだ。庶民くさい真似は慎まなくては。
ロイヤルスイートはアドラー号最高の、14階。そこにある七室に向かうには、ロイヤルスイートの客室のカードキーを差し込まないと、エレベーターは最上階には連れていってくれない。興味本意な他の乗客や不審者への対策の一つなのだろうと思った。チン、と音がしてエレベーターの扉が開く。七室しかない14階には完全に専用だろうフロントまであった。制服を着こんだスタッフが火神に笑顔で会釈する。
「お待ちしておりました、火神様ですね」
「ああ」
「お部屋は1403号になります、何かご用命があればいつでも内線で及びください。私共はいつもフロントにおりますので」
スタッフは火神を部屋まで案内し、再びフロントへ戻っていった。火神は部屋を見回す。足の長い絨毯、品の良い調度品、幾つも繋がる部屋。あまつさえバルコニーにジャグジーまでついている。
「俺のアパートより広いじゃねえかよ」
icpoの警官とはいえ、一階の市民の火神にはどうも落ち着かない場所だった。思わずやるせなさが込み上げてきて、火神は頭を振る。俺は捜査に来たんだ、遊びに来たんじゃねえ。日向さんや相田さん達はスタッフとして、一般乗客として、目立たぬ様アドラー号に乗り込んでいる筈だ。皆の頑張りを、俺一人のミスで泡に帰すわけにはいかない。
「先ずは、ロイヤルスイートの客全員が揃う筈のディナーだな」
時計を確認する。午後七時半。基本的に食事の時間は自由だが先程スタッフに「八時くらいが調度よい時間」と聞かされていた。世界一の豪華客船、更にその七室しかないロイヤルスイート専用のレストランでのディナーは特別な意味をもつのだろう。金に飽かせたセレブ達が好むものは交流、人脈形成、又の名をコネクションともいう。七室、単純計算しても12人の乗客のなかから、陽泉の商人、その取引相手を見つけなくてはならない火神にも願ってもない話だ。
「必ず見つけ出してやる」
八時からのディナーに備えて火神はタキシードへと手を伸ばした。
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