若+青桃

若+青桃
ゴールデンウィークも終わって五月。新入生の殆どが桐皇の生徒として違和感なく馴染んだ頃。若松は憤りと共に未だ数える程しか練習に出で来ていない彼を探していた。

青峰大輝。バスケに興味のある者で彼の名を知らぬ者はいない。全中三連覇を成し遂げた十年に一人の天才達「キセキの世代」のエース。一度でも彼等の試合を見れば嫌でも理解させられる、この世に天才は存在するのだと。そんな中でも青峰の存在は群を抜いていた。天才の中にあっても霞む事のない絶対のスコアラー。若松自身は中学時代彼と試合したことはないが、観客席から見たコートを縦横無尽に駆け巡る青峰の姿は瞼の奥に焼き付いている。強烈な陽光の如くに。

だから若松には許せ無かった。そんな彼が練習に出ない事が。自身の才能に溺れて、腐っていく奴等は沢山見てきた。少し人よりできる、回りから天才と持て囃される、それらの上に胡座をかいて努力を怠った奴等は結局が全て凡人以下に成り下がった。青峰の才はそんな凡人と同じではないとわかってはいるけれど、それが練習に出なくていい訳にはならない。才が有るならば、それをもっと磨くべきだ。磨かなければ何れ腐って錆となる。青峰のもつ圧倒される様な光が消えて終うのは見たく無かった。

校内を粗方探し終えたけれど青峰は見つからず、最後の望みを託して屋上の扉を開く。目に飛び込んできたのは誰もいない殺風景な空間。ああ外れだったか、それにしても青峰は何処に。と思考を巡らした時、ふとペントハウスの上へ到る梯子が目についた。まさかとは思いつつそれに足を掛けようとした瞬間、聞いたことのある低音が耳を擽った。

「なあさつき、今何人だ」

それは若松の探していた男、青峰の声だった。いつになく真剣さを孕んだ声色に思わず動きを止める。応えたのは青峰の幼馴染みだという一年マネージャーの桃井。彼女は言いたくなさそうに青峰に言葉を返す。

「…九人と、五人」

何の数だ、と若松は思い、はたと思いあたる。バスケ部を辞めた奴とポジションをPFから変更した奴の数だ。四月に青峰大輝という最強が入部してから僅か一ヶ月の間に三年も含めて九人が退部し、青峰のポジションであるPFからは五人がポジションを変更した。その理由は若松にだってわかる。絶望、彼等は青峰の圧倒的な才能を前にして、自らのバスケに自分で幕を引いてしまったのだ。青峰が桐皇に入った瞬間からスタメンの空席は四つに為った。更にPFは決してスタメンになれない事が確定した。それは三年であろうと二年だろうと況してや一年だろうと関係なく適用される、不変になってしまった。PFとして出場するには青峰が出ない際のおこぼれに預かるしかない。彼等は青峰のその才に絶望して部を去ったに違いなかった。

「怖いんだ、さつき。皆が俺のせいでバスケに絶望して、去っていくのが辛い」

「大丈夫だよ、大ちゃん。キセキの皆がいるじゃない、だから大丈夫だよ」

半ば独白の様に呟いた青峰に、反射の様に大丈夫だと繰り返す桃井も、どちらの声も酷く無感情でその癖今にも壊れて終いそうな程に膨らんだ何かを孕んでいる。その声に普段の暴君然とした色はなく、若松は理解する。青峰は、悲しいのだ。誰も己と同じ位置に立てず、敵はおろかチームメイトでさえ青峰の力の前に絶望する、その現状が恐ろしいと思っているのだ。

(くそ、)

その侭割ってはいる事が出来ず、若松は梯子にかけていた足をそうっと降ろすと屋上を後にした。




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