赤司と青峰


「オレは、お前とは違う」

まるで戒めだった。薄く開いた唇は残酷な迄に美しい。自分自身に言い聞かすかの様な低い言葉が地を這い、僕の耳を侵す。ざあ、と風がふき男の真青な髪が揺れる。随分と上背のあるその様と相まって、まるで暁の空の様だと思った。天日が姿を表す一瞬前の、一番明るい夜の最期。

「どう、ちがう」

何如か捻り出した声は、しっとりと濡れていた。男は真直ぐに此方を見据えた侭。此方の嘆きになどとうに気付いているだろうに、男の瞳は揺らぎはしなかった。けれど、僕は誰の前でも、弱音を吐いたことなどない。弱い姿を見せたことだってない。いつだって、凛とした己でいたかった。

「僕と大輝は、どう違う」

やっとの事で唇に乗せた声は掠れて引きつっていた。じわり、じわり。宵闇が迫り来る。暗く血の様な赤の太陽が沈みきり、世界が闇に塗り替えられる。 いっそうのこと、お前と二人だけでいられれば良かった。何も煩うことの無き、高みで。一歩、思わず後退した足を奮い立たせて前へ出す。近づいた距離。思う刹那に青峰は一歩後ろへと引いた。握ろうと伸ばした僕の手を避ける様に、青峰は更に後退する。夜が、夕焼けを食らう。燃える心臓の炎を呑み込んで終う。

「こたえてくれ、大輝」

最適な一言を、僕の望みを繋ぐ、唯一を、其の美しい迄の声で。そうすれば僕は。

「永遠など、要らない。それは、弱さだ、赤司」

鼓膜を揺すぶられる。闇が迫る。王の様に君臨する存在が眩しい。世界が、ぐらり、と揺らいだ。一度の瞬きの後、見開かれた瞳は痛いほどに真直ぐに僕を射抜く。

「弱者の望みだ」

お前を光だと、揶揄する輩は大勢見たが、 否、僕にとってはお前こそ。お前こそが、僕の絶望だ。



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