ギン乱
▽がくぱろ
「乱菊、」
ひとつ囁くように耳元で名前を呼んで、啄むだけのキスを交わす。何度かそうすることを繰り返してから、呼吸をするために微かに開かれた唇に舌先を捩り込んだが、前歯に阻まれた。
「今はやだ」
僕の胸に手を置いて乱菊はすい、と顔を離す。引かれた顎は白く尖り、その輪郭を視線でなぞりあげると、やや上目遣いの目にぶつかった。金色が目に眩しい。
「五限目、何?」
「日本史よ、」
「ふうん、出んの?」
「出るわよ。あんたは」
「数学」
「出なくて良いの?」
「僕を誰やと思うとるん?」
疑問形に疑問で返す。高校程度の数学なんて、教科書を一度読んだら理解して仕舞った。他の教科も然り。正直言って学校に来るのも馬鹿馬鹿しい。乱菊の形の良い眉が少し上がる。
「ええやん、乱菊も僕とさぼろ」
「嫌よ、」
「日本史なら僕が教えたる、」
なあ、と乱菊の耳元で囁いて耳朶を甘く噛む。小さく呻いた彼女の両腕を掴んで、グロスの光る唇に口づけた。同時に背後でチャイムがなる。舌を絡めたキスの後、仕方ないわねとでも言いたげに笑った乱菊にもう一度、啄むだけのキスをした。
(青春なう)
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