My heart in your hand. | ナノ


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途中、生徒会の役員がご丁寧にも全員紹介されたり、その後生徒会長が祝辞を述べた下りでやたらとざわめきが起こったりした以外は取り立てて言うこともなく入学式が終わり、各クラスに移動しての担任の挨拶や自己紹介などもつつがなく終了した。
生徒会役員は妙に華やかな雰囲気だったし、多分人気があるのだろうということは分かった。

ホームルームの後、解散してもいいと言われたので、スマホを取り出して通知を確認する。特に岩見からの連絡はなかった。先に帰っておくか、どうせだから迎えにいくか。
少し逡巡していると慣れた呼び名が聞こえた。首を巡らせて後ろの出入り口を見る。岩見がいた。

にぱっと二人で話している時に見せるような笑顔を浮かべてこっちに来る岩見に、物珍しげな視線が集まっている。
「迎えにきちゃった」
「今、そっち行こうか考えてた」
「まじで? 愛だね」
「それより、どうだった」
「うん、大丈夫だった! 前後左右の子とお話しましたよ」
「そりゃよかったな」
だから大丈夫だって言っただろ。
よほど嬉しかったのか岩見の顔は緩みきっている。鞄を持って立ち上がりがてら頬をつねるとわあわあと抗議された。
こいつ、安心してこの視線もどうでもよくなってんのか。
並んで教室を出て歩く。

「エス、明日テストだよ。大丈夫?」
「今更。復習みたいなものだろ、多分」
「俺は一応お勉強するよー。エスはどうする?」
「お前がテスト勉強とか珍しいな。俺はしない」
「だよね」
だよね、がどっちにかかっているのか分からなかった。
ふと思い立って俺は図書室に行くと宣言する。長期休暇も終わったのだし、もう開いているだろう。

「お昼までには戻ってこいよ?」
「極力そうする」
寮に戻る岩見と、階段付近で別れて四階に向かう。俺が校舎でまっさきに頭に入れたのは図書室の場所だ。
行くのはもちろん初めてだが、位置は分かっているつもりだ。


辿り着いたその場所は、俺の予想以上に広かった。
天井まで届く書架にところ狭しと並べられた書籍。日本の図書館よりは外国のを連想したくなるような空間だった。俺は思わず感嘆の息をついてぐるりと周りを見渡した。四方の壁がほぼ本で埋まっている。
やばい、物凄く嬉しい。勝手に上がっていくテンションをそのままに、とりあえずは中を見て回ることにした。


▽▽▽

空腹を感じてふっと我に返る。
本を閉じて時間を確認すると三時を少し過ぎていた。勿論、昼飯は食べていなかった。

岩見は察したのか、特に何も言ってきてはいない。とりあえずメッセージアプリで短く謝罪を送るとすぐに、アップルパイでいいなら食べるかと返信があった。
どうやら俺が本を読みふけっている間に作っていたらしい。岩見の家事スキルは留まるところを知らない。将来的になにかすごいものになっていそうだ。
とりあえず、食べると返事を送って、本をしまって図書室を出た。

また来よう。期待以上で良かった。


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