ダイヤモンドをジャムにして | ナノ



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「昼休みに、生徒会の仕事で段ボール運んでたから、一緒に持っていって、今度ご飯誘うねって話した」
「すい、手伝い偉い」
あっくんがすかさず褒めてくれる。香くんは、おれが嬉しいのは敷島くんとちょっと仲良くなれたからだということを理解して、だからか、という顔をした。

「お前、そいつのことだいぶ気に入ってんね。荷物運ぶのなんか嫌いなくせに」
「だって、敷島くんって、すごく良い子なんだよ。香くんも、話したら仲良くなりたいって思うよ」
荷物くらいいくらでも持つよ。ていうか、あれは大変そうだなと思って、敷島くんのお手伝いがしたかったという気持ちの方が強いし。
「そうかもな」
頷いた香くんが、そのまま湯から上がる。あ、おれももう上がろ。

「お先にー」
「はあい」
長風呂派の慎くんがにっこり笑って手を振り返してくるのを尻目に、香くんの後を追いかけて浴場を出た。下着だけの姿で、がしがしと雑に髪を拭いている香くんの隣に並ぶ。
「そういえばね、敷島くんとばいばいしたあと、一人でごはん食べて寝てたら知らない人に起こされたんだ」
「ふうん? どんなやつ」
「えっと。ぴしっ、きりっ、て感じの人? ちょっと野球部っぽい」
「へー、全然わかんねー」
だよね。伝わらないのは分かってた。気にせず話を続行する。

「でね、もう休み時間終わるぞって言われて、教室帰ろうとしたんだけど、おれ、迷子だったの。そしたらそのお兄さんが送ってくれた」
すぽんっとTシャツの襟ぐりから頭を出す。香くんは長椅子に腰かけて、上半身は裸のまま思案顔になった。

「見回りしてた風紀かな。」
「風紀?」
風紀って、あれか。服装検査とかする、風紀?

おれの問いかけに香くんはそうそう、と相槌を打つ。見回りか。そうだったのかもしれない。また会うことがあったら、聞いてみよう。それと名前も教えてもらう。

「すい、シャツとって」
「香くん、髪乾かして」
「やだ」
シャツを渡してあげながら、その代わりとばかりにお願いしたら、即答で断られてしまった。

おれのふわふわする癖っ毛はちゃんと乾かさないと翌日困ったことになるけれど、香くんはずるいことにコシのある直毛だから、ざーっと拭いて手櫛でとかしてあとは自然乾燥なんて暴挙に出てもすんなり落ち着いている。
おれだって香くんみたいな髪がよかった。おれは口を尖らせて備え付けの鏡の前に座った。濡れて色がちょっと濃くなった髪は、濡れててもやっぱりふわっふわしてる。

(りゅう)くんならやってくれるのにー」
隆くんは香くんとおれの兄ちゃんだ。鏡台にぺたりと顎をのせて不平を言うと、鏡越しに香くんがにやっと笑った。

「ホームシックか? すい」
香くんがもつ緩く弧を描いた眉も穏やかそうな目も、口角がちょっと上がった優しい印象の口元も、そういう表情の作り方と話しぶりのせいで台無しだ。胡散臭いし触れたら危険な男みたいな雰囲気になっちゃう。真顔の方が優しそうに見えるってどういうこと?

「隆くんシックだよ」
家が恋しいとは思わないけれど、おれは甘ったれなのでお願いすれば文句を言いつつ甘やかしてくれる兄ちゃんがここにいたらなとは思う。

「篤史なら喜んでやるだろ」
「それはちょっと違うの」

無条件で甘やかしてくれるのが嫌ってわけではなくて、ただ、しょうがないなって(てい)で甘やかされるのが好きなの、おれは。面倒だけどやってくれるとかそういうのに、おれ甘やかされてるなーってより実感するというか。
ふうっとため息をついてから、仕方がないので自分で髪を乾かしはじめた。


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