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悪魔は甘美な罠を張る - 3



運悪く俺を轢いてしまったのは、地元でも関わるなと大人たちが口を揃えるヤクザだった。しかも、組頭を乗せた車だった。
運転手いわく、角から突然現れた俺に対応できずに轢いてしまったそうだが、俺は奇跡的にも右頬を地面に掠っただけで済んだ。そんな俺の治療費を出した組頭は、その夜うちに菓子折りを持って謝罪に来たほど紳士的で。
なんだ、ヤクザって言っても常識人なんだなぁ、と家族揃って菓子折りを頂いた翌日、いつものように学校でイジメられている俺の前に現れたのが組頭の息子――瀧本だった。


『親父に轢かれた野郎に興味があって久々に登校したけど、来て良かったわ。
堀田、だっけ? お前さ、俺の使いどころを間違えんなよ?』


と、ボロボロになった教科書をゴミ箱から取り出す俺に、開口一番、瀧本は言ったのである。

俺一人だけだと思っていたクラスメートたちが、扉に寄りかかっていた瀧本の様子を伺った。瀧本はそんな彼らの視線一つ一つに応えるように教室内を舐め回したあと、ゆっくりと歩き出す。
俺はなにも言わずに瀧本のあとを追い、すっかり汚れてしまった自分の席に座ろうとした。瞬間、


――ガラァンンッ!!

「堀田ぁ、てめぇの机はこんなに汚くねぇだろぉ?」


と、空の机を蹴り上げた瀧本は、すぐ前にあった机を倒して中身を出すと、椅子の上で固まる俺の前にそれを引きずった。ゆっくりと瀧本を見上げれば、人の悪い笑みで見下ろす悪魔のような姿。じっとりと見上げる俺の視線に満足したのか、瀧本はすぐ後ろの席に座った。
そこはお前の席じゃないと、誰も言えないことをこの男は知っている。そうして静まり返った教室内で唯一鼻唄をもらす瀧本は、後ろの席から俺のうなじに指先でなんども、なんども円を描いて笑っていた。




 


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