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悪魔は甘美な罠を張る - 4



使いどころを間違えるな。そう言って現れた瀧本はその日から俺を守るようになった。
いや、守っていると言うのは少し違うかもしれない。彼は、瀧本は遊んでいるのだ。

自分の名前が持つ権力と、人を人とも思えない残忍さの誇示、それによって怯える無力な人間を嘲笑う。
そして、そんな男に守られ自惚れて、自分の手の内に堕ちてくる俺を今か今かと、悪魔のような笑みで待ち望んでいる。

そんな甘い罠になど、誰が嵌ってやるものか。


「お前ってさぁ、意外と不良だよなー」

「瀧本には言われたくない」

「あはは、まぁそうだよなー」


あれから二限目まで真面目(とはいってもずっと俺のうなじで遊んでいたが)に授業を受けていた瀧本は、三限目の鐘が鳴る前に俺を屋上に引っ張ってきた。屋上の柵に背をつけて、並んで煙草を吸う俺たちが吐き出す紫煙が空中でゆらゆらと消えていく。
屋上には誰かが設置したパラソルとビーチチェアがあるが、その上は枯葉やゴミで汚れており、随分使われていないことが見て取れた。


「あれ、設置したの誰だと思う?」

「瀧本」

「ははは、ちげーし。つか俺も知らねー」


カラカラ。機械的な笑い声。
俺はそんな瀧本に目を向けることなく、二本目に火をつけた。

前門の虎、後門の狼。というのはまさに、今の俺の状況に相応しい。
俺をホモだと苛めるクラスメート、そんな彼らから守る振りをして舌なめずりしている悪魔。
あぁ、どちらも性質が悪い。と、思ったところで明日がどう転がるわけでもない。
俺は早々にこの状況を打破する答えを導き出さなければならなかった。


「堀田ってさぁ、分かりやすいよなぁー」


カラカラ。笑っていた瀧本が呟く。その視線がこちらに向いているのをジリジリ感じながら、大きく煙を吸い込んだ。


「そう、初めて言われた」

「へぇ、そうなん?」

「なに考えてるのか分かんないって、親にも言われるからね」

「あぁ、基本無表情だもんな、お前」

「そうらしいね」


口から吐き出る淡々とした言葉、それに混じる紫煙がゆらゆら彷徨って。


「でも、俺はなんでか、分かっちゃうんだよなぁ〜」


悪魔は甘美な罠を張る。




 


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