いつも見ていた。さりげなく、バレないようにこっそりと。
好きな食べ物や好きな色、音楽や映画の趣味も、今はまっている小説のシリーズだって見ていれば分かった。
だから彼は大丈夫だと、なぜ俺はそんなことを思ってしまったのか。
「ホモが、学校に来てんじゃねーよ」
「うつると困るから息止めてくんね?」
ギャハハハハッ! クラスに木霊する下品な笑い声。それを発する男たちのずっと向こうでこちらを見る彼の目は、俺を拒絶していた。
優しい彼だから、俺が告白してもちゃんと振ってくれるはずだし、誰かに言い触らすことなどしないだろうと、俺はなぜそんな思い込みをしていたのだろう。
それから始まった執拗なイジメの日々で、帰宅途中に体の痛みで周りを意識していなかった俺は車に轢かれた。
ぐにゃりと曲がった体がボンネットの上を転げ、重力に従い地面へと落下。あぁ世界が終わるのだ。なんて思ったけれどそんなことはなくて、
――ガァアアンッ!!
「わりぃ、今なんか言った?」
右頬をガーゼで覆った俺の隣から現れた、赤い髪の男は今しがた自分が蹴り上げた扉に寄りかかりながら、静まり返った教室を見下ろす。
男――瀧本はそんなクラスメートたちをカラカラと、独特な笑い声を上げて見下していた。
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