生臭い喘ぎ声が耳を刺した。俺は天井の木目を眺めながら、いつ終わるとも知れない時間の出口を探す。とはいえそんなものは初めから無かったのかもしれない。早々に諦めて目を瞑る。まぁこれで寝れたら自分の図太さに驚くわ。
「ミサキぃ、一緒に帰ろうよぉ」
先ほどまで高い声で乱れていた少女が服を正し、ミサキの腕を掴んで自分の方へと引き寄せる。しかし王様はそれに答えず、あろうことか教室で煙草をくわえやがった。最早突っ込む気にすらなれん。
なにも応えず、むしろ少女の存在を空気同然のように扱うミサキに、少女は目を潤ませながら走り去った。もちろん、最後に俺を睨むことも忘れずに。
「今日はなんもくんねーの?」
「……ん? あ、ごめん、なに?」
寝たふりをしていた俺が、あたかも今起きたかのように頭を掻くと、鎖の先端を指に絡ませていた王様が笑った。
「煙草、見つかるかもよ?」
「……じゃあ、止めたらいいんじゃない? せめて、家だけにしとけば?」
先ほど少女がいたときに見せるべきだった笑顔を惜しむことなく俺に向けるミサキは、しごく楽しそうである。じゃら、じゃら、と音を立てながら鎖を弄り、ついに煙草の先端へ火をつける。
端からこの王様が俺ごときの意見を聞くとは思っていない。思ってはいないが、迷惑だ。
俺は大袈裟なため息をついて、自分の鞄に入れていた飴を取り出す。鎖を弄りながら笑っている王様の元へ近づき、躊躇うことなく煙草を奪った。
「あのさ、俺はミサキが堕落した人生歩もうが捕まろうがどうでもいいけど、飴くらい自分で買えよ」
と、そこまで言って用意した飴を自分の口の中に放る。ミサキはそんな俺に目を見開いていたが、まさか俺が馬鹿正直にくれてやるとでも思っていたのだろうか。さすが王様、思考が自分中心だ。
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