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ある王様の話 - 6



ミサキはいつも目を細め、暇そうにどこかを見つめている。
本人としては呆然としているだけなのだろうが、その姿は品格のある美しさが宿り、見る者すべての心を奪う。正直、俺はそんなミサキが死体を見ているようで少し、怖かった。


「お手」

「はいはい、面白い面白い」


ミサキの犬になったらしい俺は、彼の椅子の横に座ったまま伸びてきたその手を弾く。そんな俺の姿に取り巻きたちは暴言を浴びせてきたが、当の王様はどこか嬉しそうである。気持ちが悪い。
犬宣言をされてから数時間後、俺の席は王様の足元と決まったらしい。別段逃げるつもりもないが、ミサキはその手にある鎖をしかと持ち、反抗的な俺へ笑みを絶やすことはなかった。

周りから甘いため息が漏れる笑みを向けるミサキに俺は思う。
――もしかすると、ミサキは普段から従順な周りに飽きていたのかもしれない。
だから今、残り五日で去ることを理由に反抗的な俺がとても面白いものに映るのだろうか。ならば俺は逆に従順になったほうがいいのだろう。

魅力的なこの王様の記憶のわずか一部にでも、俺と言う存在を残したくない。

あと五日もすればこの町を出る。秀でた才能も優れた容姿も持っているわけではないから、もしかしたら婚期は遅れるかもしれないけれど、いつか自分が結婚したとき、自分の子供に聞かせる学生生活の中にミサキが在ることを俺は許したくないのだ。

だって、どんなに抗おうとも、俺はこの王様を忘れ去ることはできないだろう。それほどまでに魅力的なこの王を、この町の人間は忘れることができないはずだ。

なによりこんな首輪で繋がれた姿を、俺はきっと忘れることはできないだろう。――あまりにも屈辱的過ぎてな。




 


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