*浜津side**
「ふーん、お前変わってんなー。実は影でイジメに合ってる系?」
「?」
ちょっとした悪戯のつもりで問うと、またも首を傾げた彼は突然微笑んだ。頬に大量の餡子をつけたまま。
「イジメは食べれません」
「は?」
「食べれないものにはそもそも興味がありません」
興味がない。はっきりとそう言い切った彼は笑顔のまま、また菓子パンをもそもそと食べ始める。
度し難いことに、なんだかこうもはっきり言われてしまうと多少ムカツク訳で。そもそも俺は不機嫌だったわけで。
「お前さ、友達いねーだろ?」
憂さ晴らしのつもりが有ったと言えば有ったのだろうけど、
「そんなんだから周りから気味悪がられてんじゃねーの?」
でも別に興味もない相手にここまで言うつもりはなかった。
「理由考えたほうがいいんじゃね? 正直、気持ち悪いよ、お前」
笑顔で告げる俺に、彼は目を見開いている。さすがにここまで言われたら分かったのだろうか。
しかし何をやっているんだ自分は。くだらねーことでついカッとなって、アホだな。
わずかに芽生えた罪悪感を消し去るように微笑み続ける俺に、逆に彼もまた、微笑んだ。頬に大量の餡子をつけたまま。
「ところで貴方は誰ですか?」
「……は?」
どうやら俺は最初から相手にすらされていなかったらしい。
ニコニコと微笑みながら返事を待つ彼に、いや古滝に、俺はそっとティッシュを差し出したのであった。
別に悔しかったわけではない。
自分で言うのもなんだか、女に苦労した覚えもないし、勉強も運動もそこそこできる。ただ、この出来事をキッカケに古滝のことを知れば知るほど、奴は意外と頭も良くて人にも恵まれていた。
普通であればイジメられていそうな古滝だが、もそもそ食べている分には害はなく、むしろ不良から菓子パンを取られても図々しくジュースを請求している辺り図太い。そして本当にジュースをあげている不良はアホだ。
運動部の連中も古滝からパンを買い、ついこの間は教師がコンビニ弁当を買っていた。古滝の持つキャリーバックはブラックホールかなにかか?
なぜ頭が良いのか理由を聞いてみると、母親に十位以内じゃないと三合までしか炊いて貰えないから、だった。
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