「なんでさん付け? つか同じクラスだし、敬語いらねぇだろ」
「あぁ……えぇと、うん……そうだね」
そうだね、とか普段の自分には似ても似つかない口調にちょっと自己嫌悪。
確かにミサキは王様だ。だから周りはミサキに従う。けれど、皆がミサキに心酔するのはそれだけじゃない。
切れ長の瞳に、高い鼻筋、生意気そうに結ばれた口元から紡がれる言葉はどこか横暴で、それでいて甘露のような毒を持つ。すらりと伸びた長い手足は、少し動かしただけでもどこか色気を孕み、短めに切られた彼だからこそ似合う髪型はどこか野性味が溢れ、黒曜石のように真っ黒でシンプルなピアスがとても、扇情的。
言ってしまえば、ミサキは肩書に相応しい容姿を持って生まれた、生粋の王様なのだ。
「ミサキはいいの? あっちで遊ばなくて」
「別にいい」
「……煙草、外で吸うのはさすがに危なくない?」
「危ないって?」
「……警察、とか?」
いくらなんでもこの状態で捕まるのは俺自身も恥ずかしい。なのでさりげなく補導を回避すべく煙草を注意すれば、ミサキは合点がいったように「あぁ、」と呟く。
「それで飴、くれたのか」
「……まぁ、ね」
先ほどのことを思い出して目を逸らす。さすがにちょっとやりすぎたなぁと今では思うが、あのときは自然と体が動いていた。
この歳で捕まりたくないと細胞が活性化したに違いない。そうに違いない。
「じゃあまた、何かくれりゃいいじゃん」
「……」
フッと鼻で笑いながらミサキが紫煙を吐き出す。
さすがにもう目撃者多数のこの場で無理に止める気はないのだが、色々とこみ上げるものがあり、俺は先ほどまで物欲しそうに見つめていたナッツを手に取る。だがミサキにくれてはやらず、自分で咀嚼した。
「別にもういいよ。ミサキの勝手だし」
そもそも俺、さすがに腹減ったし。
そんな俺の行動を見ていたミサキはまたも鼻で笑い、辞めるつもりもなかった煙草を吸いながら、明らかに酒であろうそれをゆっくり、味わっていたのだった。
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