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――パンッ!

「……っ」

「……あ?」


驚いた。俺の体はこんなにも早く動けたのかって。
頬に感じる痛みにグラつきながら、俺は雄樹のほうを見る。

雄樹は引っぱたいた相手が俺だと気づき、冷静さを取り戻したらしかった。


「トラ……ちゃ、ん?」

「あぁ、そうだよトラちゃんだ。お前の友達の、小虎だ」

「……え、あ……な、で? ……え、俺、おれ?」

「よしよし。良い子、良い子。お前はアホだけど、恋人に手ぇあげるようなやつじゃねぇだろ、な?」

「……トラ……ちゃ」


呆然と立ち尽くす雄樹の頭を撫でてやりながら、子供をあやすように優しく宥めてみる。
雄樹の瞳は今にも涙を浮かべそうなほど、ひどく濡れていた。


「あー、いてぇ。なんだよこれ、結構痛いじゃん」

「え、あの、え……え?」

「なぁ雄樹、覚えてるか? 俺さ、前に言ったよな? アホでいろって。約束破んないでくれよ。俺の唯一の友達なんだからさ、な?」


微笑みかけて、頭をぐしゃぐしゃと撫でまわす。
その瞬間、雄樹の顔はぐしゃりと破顔して、その体は俺に抱き着く。

そのまま撫でつづけていれば、うしろから俺が仁さんに撫でられた。


「……悪いな、トラ」

「……いいんですよ仁さん、俺の友達は恋人に手ぇあげるやつじゃないんです。俺は、それを証明しただけです」

「あぁ、……そうだな」


雄樹の表情筋が移ったのだろうか、俺を撫でる仁さんの顔も破顔していた。

それから落ち着いた雄樹をソファーに座らせて、ふたたび話し合いの場がはじまる。


「あのね、トラちゃん……俺、が、ブラックマリアの一員じゃなくなった理由、言ってないでしょ?」

「あぁ」

「……俺、ね。ブラックマリアの一員になる前に、仁さんと会って、カシストで過ごして……そのときここを溜まり場にしてた、ブラックマリアに入った」

「うん」

「最初は、良かった。仁さん以外の人と過ごす時間も楽しいって、そう思ってた。でも俺は仁さんが好きで、男だけど、好きで。色々あったけど……付き合えることになって」

「うん」

「でも、ある日……仁さんのこと、悪く言われて、頭にきて……それで、それで」

「喧嘩したのか? ブラックマリアの連中と」

「……う、んっ」


なんだよ、それ。




 


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