「すみません……でした」
雄樹のほうを向いて様子をうかがっていれば、不良たちの謝罪が仁さんに向けられる。しかし彼は舌打ちを零し、言った。
「それだけじゃねぇだろうが、雄樹たちにも謝れ、クソガキども」
「……やっ」
不機嫌な仁さんの声が不良に放たれれば不良たちは若干顔をしかめ、雄樹と俺のほうに体を向ける。
それを感じた雄樹が小声でなにかを拒絶した。
……雄樹?
「……悪かった」
ぽつりと、だけど確かに謝罪の言葉が告げられる。
それなのに、それを聞いたはずの雄樹は立ち上がって、叫んだのだ。
「――ふざけんなっ!」
静かな店内に、雄樹の荒々しい声がキンと響く。
突然の豹変に俺がなにも言えず固まっていれば、雄樹は体を震わせ、さらに言い放つ。
「なにが悪かっただよ! 散々俺と仁さんのこと見下して、あげくの果てに謝るとかっ! 馬鹿にすんのもいい加減にしろよっ!」
「……雄樹」
冷静さを失った雄樹の声に、仁さんが悲痛な声で名前を呼ぶ。
だけど、それが雄樹に届いているかは分からない。
震える肩の原因は間違いなく怒りだ。それも、生易しいものなんかではない。
「だいたい仁さんも仁さんだろ! なんで謝罪なんか求めてんだよ! こいつらのこと許したつもりかよっ!」
「違う、雄樹、落ち着け」
「落ち着いてんだろうがっ!」
あろうことか、怒りに身を任せた雄樹はその牙を仁さんにまで向けたのだ。
恋人である、仁さんに。それでも彼は冷静に雄樹を宥めようとするが、今の雄樹に、その余裕はないらしい。
仁さんが雄樹の肩に手を伸ばす。触れそうなその瞬間、雄樹は彼の手をはじいた。そして――なにを思ったのか、腕を振りかざしたのである。
← →
しおりを挟む /
戻る