それは不良たちにとってありえない発言だったのだろう。
いや、隆二さんにも、俺にも……ここにいる、兄以外の全員にとって、ありえない発言だった。
兄はチームにたいして、これっぽっちも愛着など持っていない。
だから簡単に解散だと口にする。それを悲しむ人間がいても、分かっていてなお口にする。
だけど隆二さんからしてみれば、それは手放しにでも喜んでしまいそうな甘美な言葉にもなる。
一体、なにを考えているんだ?
「そうと決まればさっさと伝えてこいよ。ブラックマリアはこの時を持って解散だって。おら、早くしろ」
「れ、玲央さんっ!」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇよ。てめぇらが巻いた種だろうが、文句言う暇があったら一秒でも早く伝えに行け」
「――玲央さんっ!」
すでに興味もなくしたのか、兄は煙草に火をつけて足に群がる不良の顔を蹴り飛ばす。
そんな光景を呆然と見つめていれば、黙っていた隆二さんが兄の前に立った。
「どうした隆二。なんか言いてぇことでもあんのか?」
「……いいだろ、もう」
「なにがだよ」
「……俺、が、抜けりゃ済む話だろ……。解散はするな、みんなが……悲しむ」
ゾッと、背筋になにかが這う。
名前の知らないそれに表情を固めていれば、隆二さんは兄を見据えた。しかしそんな隆二さんを見た兄が起こした行動は、笑いだったのである。
「はっ、聞いたかよ、おい。お前らのせいでこんなんなってる隆二が、解散するなだって? おいおい、どこまでお人好しなんだよ、なぁ?」
「……っ」
馬鹿にするような笑いをそのままに、兄はつい先ほどまで蹴っていた不良の背中を無遠慮に叩く。
不良は気まずそうな顔を隆二さんに向け、固まっていた。
「好きに言ってろ。とにかく俺が抜ける……だから、ブラックマリアは解散するな」
「へぇー」
口元を緩めたまま、兄は隆二さんを見つめる。
しかし次の瞬間、その口から発せられた言葉にまた、この場にいる兄以外の全員が耳を疑うこととなった。
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