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俺を殴った不良と雄樹のうしろで倒れている俺を見つけた兄は、恐らく吸っているだろう煙草を片手にこちらに近づく。
怒られるのか、それとも蔑すまれるのか、はたまた……殴られるのか。
一体なにが起こるのかも分からないまま、動けない体で兄の来訪を待つ。


「……」

「……」


カツン、靴底が床につく音が俺の前で止まり、兄はゆっくりと俺の元にしゃがみ込む。
ゆらゆらと揺れる紫煙が、兄と俺のあいだを浮遊していた。

おもむろに、首筋になにかが触れる。兄の指だろうか。
指先は迷わずガーゼのもとへ行き、剥がす。


「おい」

「――っ」


そのまま、なぜか兄は痣となった噛み跡を親指で押しつぶしながら声をかけてきた。
痛みに一瞬口から声が漏れるが、それを気にする兄ではない。


「いてぇか?」

「……っ」

「いてぇよな? 当たり前だよな? 不良でもねぇくせしてこんな血まみれになってよ、それでも意識飛ばさずにまだ目ぇ開けてやがる」

「……な、に……っ」


一体なにが目的なのだろう。
なにを俺に示しているのだろう。
分からずに声を漏らせば、兄が舌打ちをこぼす。


「てめぇはいつもそうだ。痛いくせに声も上げず抵抗らしいこともしねぇ、そのくせただ事が終わるのを待って、終わったあと平気な面してへらへらしやがる」

「……」

「殴れば気が済むんだろって顔して、自分の心配もせずに諦めて、のうのうと生きてんだよな?」

「……っ」


ぐっ、親指がさらに深く、噛み跡を押しつぶす。
呼吸するのも苦しくなったそのとき、ここに来てから一番低い兄の声が発せられた。


「そして終わればてめぇは言うんだろ? でもアイツは悪いやつじゃない。――偽善者ぶんのもいい加減にしろよ、クソが」




 


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