それから二人は軽く話をして、紳士っぽい客が定位置とでもいうように迷いのない足で奥のテーブル席につく。
仁さんとその人を交互に見ていたら、急に頭を撫でられた。
「あれ、常連。まぁ昼のだけど」
「あ、あー……常連さん」
「そ。昼に喫茶店として開いた最初のころによ、流せばいい曲なんて分かんなくてジャズのオムニバスかけてたんだよ。そしたらあの人がさ、これおすすめだよってCD渡してきたんだよな。で、それから俺もかじる程度に知って、今じゃあんな感じ」
平然と料理をつづけながら言う仁さんに、なぜか目を丸くしてしまう。
なんだろう、なんか不思議な感じなんだ。
「でね、サックス憧れて買ったはいいんだけどー、へったくそーなんだよねー、これが!」
「うるせぇよ、雄樹」
「えへへー。ピラフとサンドイッチお願いしまーす」
仁さんの言葉に若干呆けていれば、いつのまにかカウンター越しにいた雄樹が笑いながら注文を伝える。
つーかサックスってかっけー。
「……なんか、いいですね」
「ん?」
そんな二人を見ていたら、なんだか急に口が緩んだ。
雄樹と仁さんがこちらを見る。
「なんか、夜には見れない仁さんが見れた感じがして、いいです、こういうの」
へらっと笑ってしまえば、またもや仁さんに頭を撫でられる。
雄樹はなぜか目をキラキラと輝かせていたが。
「ほんと、お前ってすげーやつ」
「やだもう……トラちゃん、かーわーいーい〜」
大人な対応をしているだろう仁さんはいいとして、雄樹、てめぇだけはあとで頭突きする。覚悟しろ。
「つーかさ、そのガーゼなに?」
「……これは、あれだ、あれ」
なのに悲しいかな。目ざとい雄樹は俺の首筋にあるガーゼを発見してしまった。
「なに、あれだって。意味分かんねーんだけど〜」
ケラケラ。それでもアホな雄樹は笑っている。どうしてか、それに救われてしまうのであった。
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