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「おかえりなさいませー、ご主人様ぁん」

「うわっ、キモッ!」


行く先など思いつくこともなく、ただ足の向くままに歩いていれば来てしまった。休みをもらっていたバイト先、カシストに。

エレベーターの扉が開いた瞬間、夜とは違って明るい店内はシックな音楽が流れていて、喫茶店のような雰囲気を醸し出す中に不釣り合いなフリルエプロンをした雄樹が、いた。
そしてアホなことをぬかすので素で返せば「がーん!」なんて言われる始末。

そんないつもの雄樹を見て、なぜかホッとした。

俺は驚きつつも笑っている仁さんのほうへ寄っていく。


「どうしたんだよトラまで、今日は休みっつったろうが」

「あ、はは……なんか、いてもたってもいられず……」

「ははっ、雄樹と同じこと言ってやがる。本当、お前らって仲いいよな」


仁さんの豪快な笑い声が店内に響く。そこにもなぜかホッとして、俺はカウンターチェアに腰を下ろした。


「どうする? お前も働くか?」

「え、あ……はい、働きたい、です」

「おー、じゃあ準備……」


それまで普通に会話をしていた仁さんの言葉が、急に止まる。
不思議に思って顔を上げれば、なぜか顔をしかめた彼がいた。


「おい、トラ」

「はい……?」

「んだその噛み跡、痣んなってんじゃねぇか」

「……あ」


凄味のある声にハッとする。
そうだ、困惑していてろくな治療もせず家を飛び出してしまったんだ。
慌てて首筋にあるそれを手で隠すように触れてみれば、刺すような痛みが広がった。


「……なんか、説明し辛いことが起きまして……」

「……玲央、か?」

「あ……そうなんです、けど、でも違うっていうか、なんか……いつもと違うっていうか……あ、いや寝ぼけてたから、……あっちがですけど」


どう、説明すればいい?
そのまま兄に噛まれました、なんて言ってもいいのか?

あ、いやでも噛み跡かって聞かれたあとに兄がやったって認めた時点で、もうバレてないか?




 


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