『意味、分かんねぇ』
まったくだ。まったくもって意味が分からない。
体育祭の翌日、眠れないと心配していた俺だったがいつのまにか寝ており(しかもリビングの床で)、朝起きるとすでに姿を消していた兄は、やはり夢ではなかったオムライスを冷蔵庫に締まっておいてくれた。
食べるのが勿体ないだとか言ってもいられず、とりあえず寝ぼけた頭のままオムライスを温め、食べてみる。
正直……しょっぱい。しょっぱい、けど、仁さんが作るオムライスよりも、きっと世界中の誰が作るなによりも、俺の心には沁みた。
「……」
そして冷静になってみれば、体の奥からぞわぞわと、ムカデでも這ってくるような不快感なのか寒気なのかが湧きあがった。
なんだ、あれ。なんなんだ、あれは。
いてもたってもいられず洗面所に走り、俺の顔は青く染まる。
あったのだ。俺の首筋には、確かに歯形があったのだ。しかも……痣になっている。
クラクラと脳が揺れ動く。動揺とか、そんなものよりすごいなにかがふつふつと湧きあがり、しまいには噴火しそうな勢いだ。
「……食われる」
そう、ただそう思った。食われる、と。
きっと兄なら生肉でも平気な顔をして食いちぎりそうだと思う。
冗談でも笑えないが、なぜか俺の直感が「食われる」と叫んでいた。
「……うぅ」
このまま家にいればどうにかなってしまうと、俺は部屋から飛び出した。
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