「今なんつった?」
「あー、いや……その、ははは」
「……」
厳つい表情でリーダーさんが俺に迫りくる。いや、だって名前知らねーし。
なんでか雄樹はメアド知ってるけど、俺、知らねーし。
「……豹牙、江藤豹牙(えとうひょうが)だ」
「……江藤、先輩……?」
「あぁ、そうだ。リーダーなんて名前じゃあねぇよ」
「ふっ、ははっ、はい、ですよね」
不良である彼を怒らせただろうかと目を泳がせていれば、なんと自己紹介をしてくれた。
江藤豹牙、豹だから足が速かったのか、なんてありえもしないことを思いつつ、どこか恐怖心を感じさせない彼に微笑んだ。
不思議と、この人は怖くない。
多分俺のお願いを聞いてくれた人、だからなんだろうけど。
「ウケるー! えっちゃんがリーダーさんとかっ! マジでトラちゃんネーミングセンスなさすぎー!」
「うるせぇアホ」
ケラケラ。腹を抱えて笑う雄樹にふて腐れていれば、目の前の江藤先輩は控えめに笑った。なんつーか、こう、口から笑みが漏れてきたような……そんな感じ。
つーかなんだえっちゃんって。可愛いあだ名だな。
「あ、さっき見ました。江藤先輩って足速いんですね」
「そうでもねぇよ。つーか俺も見たし、お前と玲央さんの独走」
「どどど独走!? 違うくないですか!?」
「独走だろ。みんなアホ面で固まってたぞ、あんとき」
クスクス。笑われながらこう改まって言われると、気恥ずかしいとかそれ以前に、もう穴に埋まりたい。
「ま、楽しかったからいいけど」
「うぅ……できれば記憶から消していただきたい。切実に」
「ふっ……お前って、意外と面白ぇやつだな」
「――へ?」
手の甲を口に当てながら笑う江藤先輩の言葉に、俺はきょとんとした顔で見つめてしまう。
俺、面白いのか?
「いや、アホのほうが面白いでしょう」
「アホって内山だろ? あれはアホだから新鮮味に欠けてんだよ」
「ちょっとー! なにそこでアホアホって! ひどいわ誰か慰めて!」
俺と江藤先輩の会話に雄樹が泣きついてきた。
よしよし、とりあえず頭を撫でてやる。
← →
しおりを挟む /
戻る