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「内山ー! てめぇらさっさと来いや!」


そんな雄樹イジメをしていれば、スプーンレースのスタート地点にいるクラスメートに呼ばれてしまう。
雄樹は「わーん! 聞いてよー!」とか言いながら先に行ってしまったので、俺はとりあえず江藤先輩にお辞儀をしておく。


「もっと話してぇけど、ま、今からはじまる競技も楽しみにしてる」

「や、もう兄貴帰ったんで。さっきみたいなことは起きませんよ」


あ、そうなんだ? なんて口元を緩めたままの彼に微笑んで、じゃあまたと背を向ける。
なんだ。意外と話しやすい人じゃないか。つーか気が合うし、心地いい。

新たな友情の芽が見えた気がして、俺は軽い足取りで雄樹の元へ駆け寄った。


なんて、俺の機嫌が上昇していたというのに、そのあとのスプーンレースは散々だった。
俺の、いや俺のバックである兄を恐れてか、俺と共に走る連中は越さないようにわざと遅く走るし、雄樹は雄樹でピストル音が鳴った瞬間、なぜか左隣の不良を蹴り倒し、そいつらの口からこぼれたスプーンを先に走るやつの頭に命中させ、悠々とゴールをしやがった。
そんで仁さんの元に戻れば、なぜか江藤先輩と談笑していやがる。


「はっ、マジ腹いてぇ。雄樹お前、なんだよあの独走」

「すごいでしょー? 褒めて褒めて?」

「あー、涙出てきた……」


雄樹の勇士に爆笑している仁さんは帰ってきてからしっぽを振る雄樹の頭を撫でながら、生理的に出た涙をぬぐっている。
俺はちらりと横を見て、なぜかこちらを凝視している江藤先輩に固まった。


「だせぇな」

「え?」

「お前と一緒に走ったやつら。さっきの見てビビってんだろ、だっせぇ」

「……」


漠然と、ただ浮かんできたのはこの人は良い人だ、なんてありきたりなこと。
正直、俺もさっきの走りはちっとも楽しくなかった。確かに俺には最悪ともいえる兄がいるが、それを気にされてわざとらしく走られれば気が悪いし、良い気もしない。
だけどこの人はそんな俺の気持ちを知ってか知らずか、ばっさりと言い放ったのだ。

多分、この人が一緒に走っていたのなら、きっと兄を恐れたりはしないだろう――そんな漠然なことを、思った。




 


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