「あ、の……」
「しゃべんな、うぜぇ」
「……」
「つーかなんだよオムライスって、まさか俺に作れっつってんじゃねぇだろうな?」
「あ、それは……そ、の」
そのまま歩き出した兄の言葉に返事をすれば、不機嫌そうな舌打ちがなんどもされた。
ふと視線を違う方向へ向けてみれば、呆然とした隆二さん、手で口を押えた雄樹、そしてカメラをばっちり回している仁さんが見えていた。
――笑いネタ、できたな……俺の。
「……あの」
「あ?」
仁さんのカメラに多少落胆しつつも、俺は抱えて歩く兄のほうを極力向く。
「ありがとう……ござい、ます」
「……」
「俺……まさか聞いてくれるとは、正直思ってなくて……だから」
「……」
なぁ、最近さ、兄貴機嫌いいよな。
普段の兄貴を知らないから正直分かんないんだけど、でも俺は家での兄貴しか知らないから。
こうやって、見せてくれる兄貴の全部がこの上なく嬉しい。
だから、
「すごい……幸せ、です」
そう言って微笑んでしまえば、やはり兄の返事は舌打ちが一つ。
それでも俺は満足していて、このにやけ顔をどうしようかと思いつつもやはり笑い続けてしまった。
そんな俺がシュールだったのか、それとも兄の行動に度肝を抜かされたのか、全校生徒プラス教師たちが固まって止まったままの校庭で、俺は念願の一位を獲得した。
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