ちちち、そんな鳥の声が静まったこの場所に響いたかと思えば、俺は硬直しきっていた。
なぜって、だってそうだろ?
俺、今なんて言った?
「オムライス?」
「……」
隆二さんと兄がこちらを呆然と見つめている。
その視線の先にいる俺はと言えば、恥ずかしさと後悔で顔を赤く、いや青く、やっぱり赤くしていた。
「あ、の……ち、ちが……っ」
「オムライスって言ったよな? なに、オムライスって」
全身を茹ダコのように真っ赤に染めていれば、どこか悪戯気な隆二さんが俺に突っ込みをいれてきた。
止めてくれ、本当に止めてくれ。自分でも穴に埋まりたいくらい後悔してるんだ。
「……はぁ、おい隆二。先に帰るぜ」
「あ、おい玲央……」
つまらなそうにため息をついた兄がこちらに背を向ける。
だけどそれよりも早く、俺の腕は伸びていた。
伸びて、兄の腕を掴んでいた。
その瞬間、こちらを見た兄の顔が怒りをおびて、自由な左手が俺の頭上へと振りかざされる。
「――あ?」
痛みが来るよりも早く、俺はそんな兄に抱き着いた。
俺よりもでかい胸板は固いし広いし、でも、なんか香水のいい匂いがする。
「て、め……っ、ふざけんな離れろっ」
「いいからっ!」
「はぁっ!?」
叫んで、すぐ息を吸う。
覚悟なのかよく分からない言葉が、今度は小さな声で出て行った。
「家で、なら……いくら殴ってもいい、から……っ! だから、だから今は……」
兄の胸板から顔を上げ、喉奥から飛び出ていく言葉を吐き出す。
「走ってくれよ……っ!」
懇願か、願望か、ここまで必死になる理由が分からない。それが兄に届けば、驚きの表情を浮かべた兄貴は舌打ちをこぼした。
あぁ、やっぱり……無理か。
「面倒くせぇ」
「――え?」
なかば諦めていたそのとき、なぜか、なぜか俺の視界はいつぞやのように反転した。
俺はまた、兄に抱えられたのである。
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