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正直怖い。怖い、けど。
いつも俺は我慢してた。殴られたって、蹴られたって、罵声を飛ばされようがずっと、ずっと。

だったらたまにはアンタだって我慢してくれても、いいんじゃねぇの?


「一緒、にっ、来てくださいっ!」


そんな考えが頭の中をよぎったかと思えば、口からはなんとも情けない声で馬鹿な願いが飛び出て行った。
隆二さんは驚きに目を丸くし、兄も兄で、あまり微動だにしない表情筋がこのときばかりは驚きの表情を生成していた。


「え、俺? それとも玲央?」


名前を言わずに叫んだ俺に、驚いたままの隆二さんが声をかける。
答えられずに視線を兄に向ければ、野獣の表情からは不機嫌さが消えていた。

今なら、いける?


「あの、一緒に……っ」

「隆二、行け」


――え?

俺から視線を逸らさずに、たった、たった一言だけ告げた。
冷たくも温かくもない、なんの感情も持たない声音で。


「いや、お前指名だろ? 小虎がここまで走ってきたんだぞ?」

「だから? 俺には関係ねぇだろ。さっさとそのゴミ連れて俺の視界から消えろ」


どんな表情をしているのだろう。
無慈悲な兄の言葉を聞く俺は、一体どんな表情で、どんなことを思いながら見つめているのだろう。

俯くことも怒ることもできなくて、無性に逃げ出したくなるような――悲しみ?

あぁ、そうか、俺、悲しいのか。
そう理解した途端、なにかが急にはじけ散った。


「あのな、玲央……」

「一緒にっ! 来て、くれよ……っ!」

「……小虎?」


必死に説得しようとする隆二さんの声を遮って、俺は叫んだ。
いつもなら絶対にできない睨みを兄に向けて、我慢していたなにかが濁流のように押し寄せる。


「アンタ、俺の兄貴だろうがっ! 本当の兄貴なんだろうがっ! だったら少しくらい、頼み聞いたっていいだろう!?」

「……」

「な、んだよ、お前……マジ、意味分かんねぇ……っ! つーか、マジでっ」


そこまで言い終えて、ぐっと息を呑む。
俺はなにを言っているのだろう。
だけど、その言葉が止まることはなかった。


「――オムライスの為にっ、走ってくれよっ!」

「……は?」




 


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