勢い良く仁さんのほうに顔を向け、瞬時に「いや待て、仁さんはどっちかっていうと親父みたいな感じだ」なんて思い、次にスタート地点にいるだろう隆二さんのほうへ顔を向けた。ら、なぜか……いた。
はなからやる気などないだろう学ラン姿の兄が、なぜかいた。
「……っ」
いや、無理だって。確かにあいつは俺の兄だけど、「お兄ちゃんよろしく!」「まかせろ弟!」なんて都合よくスムーズに事が進むわけがない!
それでも隆二さんの近くにいるあいつの前で「隆二さん、来てください!」と言う勇気も正直ない。
周りの生徒が「うわ、これねーよ!」とか騒いでいるのを聞き流しながら、俺はごくりと唾を飲む。
お……オムライスが掛かってる……んだ。
「……」
そう、あの、あの素晴らしいオムライス。
なんどか賄いだと称されて食べたことはあるが、あれほど絶品なオムライスにはそうそう出会えることもないだろう。
ふわりとした卵にスプーンを刺せば半熟の黄身が溢れだすように広がって、中のチキンライスもそれはそれは濃厚で絶品。
それを、そんなオムライスを、記念日なんかに食べたいとなんど思ったことか。
「……っ!」
意を決しているのかその途中なのか、俺の足は勝手に駆け出していた。
そう、スタート地点にいる兄の元へ。
五十mもない距離を勢いよく駆け抜けて、驚いた表情をしている雄樹を横目に三年の列の横を通り過ぎる。
一番うしろで隆二さんとこちらを見ていた兄の近くまで来て、急に足が止まった。
「……はっ……はぁ、……の」
たいした距離を走ったわけでもないのに息が上がっていて体が震える。
きっといつも以上に情けない顔をしているだろう俺を、兄が見つめていた。
なぜか、不機嫌そうに。
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