『ではこれより借り物競争を開始します』
そんなアホな雄樹を生暖かい目で見守っていれば、どうやら開始時間らしい。
俺と雄樹は身長が中あたりなので五、六走者である。
ふと隆二さんも借り物に出ることを思い出して三年のほうを見てみれば、確かにダルそうな雰囲気を醸し出した彼がいた。
残念なことに……兄の姿はなかったが。
「……」
「トラちゃーん? って、わ、隆二さんじゃん。なにあの人、不良のくせに真面目に参加してんだけど」
「……お前も不良じゃねーか」
どうしよう。こんなアホが友達って、俺どうしよう。
相変わらずアホ発言連続な雄樹に突っ込みをいれつつ、俺は段々と走っていく不良たちの背中を眺める。
各生徒それぞれ奮起しているようだが、同じ背格好ばかりの中ではみながみな、同じような速度でゴールのほうへ向かっていく。
まぁ、借り物で勝つには速さ云々ではなく、運一択なんだろうけど。
そうこうしているうちに、あっというまに俺の番となった。
「頑張ってー、ダーリン!」
「お前の為には頑張らないけどな、ハニー」
俺の集中力を削いでいるのか、はたまた真剣な応援なのか。
恐らく後者だろうアホの声を聞いて、俺は気合をいれる。
体育会系の教師がピストルを上にあげ、ためらうことなく引き金をひいた。
乾いた音を聞いた瞬間、俺とその横に並ぶ一年不良生徒たちが一斉に駆け出す。
やはり足の速度はそう変わらない。中間地点に置かれたボックスの中に手を突っ込んで紙を掴む。
急いであけて、俺の顔は今日一番の歪みを見せた。
「……」
開いた紙に書かれていたのは、たった一文字――兄。
なんでだよ! なんでこんなお約束みたいなことしてんだよ俺は! こんなん漫画や小説で起きておけよ! なんで今起きるんだよ、逆に運が良いのか悪いのか分からないっ!
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