『借り物競争に出場する生徒は準備をはじめてください』
「よっしゃー! きたー! 俺らの勇士を見せるときが!」
「はいはい」
そうこうしているうちに競技は進み、俺たちが出場する番となる。
クラスメートたちの「一位とってこねぇとリンチだぞ!」などというよく分からない声援を受けつつ、俺と雄樹は立ち上がった。
「頑張って来いよ」
煙草を吸いながら、日陰の中から仁さんがそう言った。
雄樹は「まかせてよね!」とか言っていたが、俺は返事もできずただ見つめてしまう。
言っても、いいのだろうか。
もし迷惑だったら嫌だし、つーか俺みたいなただのバイトに懐かれても、嬉しくないだろうし。
「トラ」
悶々と悩んでいれば、仁さんの優しい声。
つられるように視線を向ければ、煙草を片手に微笑む姿。
「お前も撮ってやるから、格好いいとこ見せろよ」
「……」
あぁ、やっぱり分かる。
雄樹が仁さんに懐く理由、分かってしまう。
ぎこちなく笑みを浮かべて、俺は頷いた。
そのあとゆっくり息を吸って、吐く。
「仁さん……俺、一位とってきます。だから……だからそんときはオムライス、作ってください」
「オムライス? もっと豪華なもんでもいいんだぞ?」
急な俺の発言に動じることなく、彼は微笑んでこちらを見る。
俺は首を横に振って、ふたたび彼を見据えた。
「オムライスがいいんです。俺の夢ですから」
普通の家族ってのが俺には分からないけれど、でも小さな頃から見ていたテレビドラマみたいな家族が普通なら、俺はそれが憧れだ。
男子高生にもなって一位をとったらオムライスだなんて正直ダサイけど、でも、それでも――。
「じゃあ絶対、一位とって来い」
「……はいっ」
やはり彼は動じることなく、むしろ優しい笑みを浮かべて拳を突き出した。
俺も同じように拳を突き出して、ポケットに両手を入れて待っていた雄樹の元に駆け寄っていく。
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