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「うわ、それ見に行きてー」

「そのつもりです」

「は?」

「カメラ持って、雄樹の勇士を撮ってください。今後の俺の笑いネタのために」

「……トラ、お前……」


あっさり友人を売った俺に伸びてきたのは、極悪面で微笑む仁さんからの握手であった。
がっしりと、カウンター内で男と男の熱くもない誓いが結ばれた瞬間である。


「なにしてんですか、二人して」

「なんだ、隆二か」


そんな俺たちに苦笑しながら声をかけてきたのは、学ラン姿の隆二さんだった。
あの一件からまた俺の知らない問題でぎくしゃくするかと思われた隆二さんたちだったが、それはいらぬ心配だったようで、隆二さんも仁さんも以前のように親しげに話をしている。

仁さんは俺との握手を終え、慣れたようにアレキサンダー作りを始めた。


「そういや隆二はなに出るんだよ、体育祭」

「え? あー……俺はパン食いと借り物です」

「借り物? うわ、それも絶対撮っておくわ」

「は? え、仁さん来る気ですか?」

「あぁ、カメラ付きでな」


ニヒルな笑みを浮かべてアレキサンダーを出す仁さんに、隆二さんはなんとも言えないような顔で見つめている。
なんだか憐れになるくらい、もの悲しい表情だ。


「だって聞いたか? あの雄樹がスプーンレースだぞ? 行くしかねぇだろコレは」

「雄樹が? スプーンレース? ……ぶっ」

「ほら見ろ」


なぜか満足げに微笑む仁さんは俺に同意を求めてこちらを向く。とりあえず頷いておけば、頭を撫でられた。


「そういや玲央は? あいつなに出んの?」

「一応、俺と同じやつですけど……種目以前に体育祭に出るのかどうか」

「あー……」


兄貴の名前に反応して耳をそばだてるが、体育祭に出ないということを聞いて肩を落としてしまう。
なんだ、せっかく家以外で過ごす兄貴を見られると思ったのに。




 


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