「つーか春にやるんだな、体育祭」
「ん? うん、秋は文化祭あるからじゃね?」
「文化祭……不良校になんて似つかわしくない行事……」
「たしかにー」
同意した雄樹と笑いあい、俺はもう一度紙のほうを見た。
「で、これって一人何種目?」
「二つでいいってー」
「あ、そうなんだ? じゃ、俺、借り物とスプーン」
「えぇ!? スプーンやるの!? 誰もやんないのに!?」
「だからだろ。だって絶対面白いって、これ」
な、そう思うだろ? 同意を求めるように雄樹に問えば、やつは若干不審な気持ちをあらわにしたまま、しぶしぶ頷いた。
「で? 雄樹は? どれにする?」
「……同じ、やつ」
「おー、そうかそうか。んじゃ頑張ろうな」
「……んー」
にやり。なんて笑いそうになるのを堪えた。
だってそうだろ。スプーンレース? 冗談じゃあない。そんな恥ずかしい競技、不良じゃない俺にだって抵抗がある。
だけど考えてもみろ。雄樹のことだ、俺と同じやつでいいとか言うに決まっている。
そして今まさに、俺と同じやつだと雄樹は言った。つまり、そうつまり。
アホな雄樹がスプーンレースをやるということだ。
これを笑わずしてなにを笑えばいい!
「じゃ、俺これ出してくるねー……」
「おー、頼んだわー」
なにか納得できない顔をした雄樹を見送り、いなくなった調理室にて俺は腹を抱えて笑ってやった。
「スプーンレース? なんだそれ」
「ピンポン玉をスプーンの上に乗せて、それ咥えて走る競技です」
「ぶっ……え、なに、それをお前と雄樹が? マジで?」
「大マジです」
放課後、カシストにて体育祭の話をしてやれば、仁さんは俺と同じように笑っている。
雄樹は相変わらずアホな恰好で接客をしていたが、まさか仁さんに笑われているとは夢にも思っていないようだ。
← →
しおりを挟む /
戻る