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「今やっと分かった。お前はあの日も今も、自分でもどんな顔をしていいのか分かってなかったんだな」

「……え」


拭った涙を自分の口元に運んだ玲央は、迷うことなくそれを舐めとる。しょっぺぇ、なんて言いがかりに近い文句を言いながら、ぐっと近寄った獣はまだ溢れる涙を頬の上で味わった。


「悲しんでいいのか、怒っていいのか、喜ぶべきか、笑顔を浮かべるべきか。色んなことが顔に書いてんだよ、馬鹿トラ」

「……じゃあ、どんな顔をしたらいいかな、」

「そうだな……」


外でこれほど近い距離にいる玲央を、いつものように怒ることもできない俺の手を引いて玲央が歩き出す。若干早い足取りに俺の重い体はなにかに引っ張られるように後ろへと下がる。けれど玲央はそんなものなど無いかのように、軽やかに俺を導いた。

二人とも無言のまま家まで帰ってくると、玄関扉を締めた玲央に抱きしめてもらえるかもしれない、なんて淡い期待は裏切られ、靴を脱いで部屋の中へと行く玲央の背中を呆然と見つめる。
あのとき、旅行から帰ったあの日見た背中はあんなに頼もしかったのに、今は遠い。玲央、と、出かけた言葉を飲み込むと、こちらに振り返った玲央に笑われてしまった。
俺の元まで戻ってきた玲央が手を引いて部屋へと導く。

どんな顔をして、なにを言えばいいのか分からない。
なのにこの手の温かさを俺は知っているから、だから悔して悔しくて。


「小虎」


リビングのソファーに座らされ、マフラーを解かれる。買ってくれたミトンの手袋も外されて、寒さに手を握るとそこに玲央の手が重なった。


「あの日と同じ顔してても、幼児退行しないのは俺を信じてるからだって自惚れて話すが、ちゃんと聞けよ」


ソファーに座る俺の前に片膝をつき、手を握る玲央。いつもとは逆だなぁと、ぼんやり頷く。




 


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