「高校卒業後、隆二たちが結婚したあと頃合いを見て、今世話になってるファッション誌だけで発表するが、俺は結婚する」
結婚する。その確信めいた現実味のない言葉にくらりと前後が分からない。
「相手はある特集で俺と隆二のパートナーになった奴だ。最初、そいつを見たときは正直驚いた。こいつ、なにやってんだ、ってな」
くすり。無意識に微笑んだ玲央の瞳を見ると、かち合った視線にちりっと刺激が走った。
「その姿を見てから、正直自分の気持ちに迷ってた。俺にとってそいつは大事な奴だが、だからって恋愛感情を持つ気はなかったし、さすがの俺でもそれは超えちゃいけない一線だってことくらい分かってたしな……いや、分かってたつもりだった。
そいつが女の格好をして、俺以外の誰かに笑う姿を見てかなりムカついた。そいつは俺のモンだって独占欲と嫉妬で気が狂いそうになった。
それを認めるまで、酒も煙草も今まで以上に手ぇ出して、自分の考えを打ち消すために喧嘩もして、女を抱こうとした――抱けなかったけどな」
「……え?」
「女装したお前を見てから、女が抱けなくなったんだよ」
「……でも、デスリカで……」
「あぁ、少しも反応しねぇから、最後は全部追いだした」
追いだした。かなり酷い仕打ちではないだろうか。いつのまにか戻ってきた余裕が心の奥でじわじわ広がる様を、ぎゅっと手を握ることで裏付ければ、握り返された手であっけなく実存になる。
「そのくせお前の匂いを嗅ぐだけで、簡単に反応するから自分で抜いた」
「ぬい……」
「お前のせいだろ、馬鹿トラ」
なんて、言い掛かりに近い文句に思わず口元が緩むと、玲央もゆるりと微笑む。
「もうお前以外、いらねぇ」
するりと吐き出された、恐ろしいほど単純な言葉。もどかしいほど甘く煮えたぎった、この男だけの胸の内。
こちらを見上げる瞳に今までずっと潜めていた、気高く美しい獣の本当。
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