とりあえず言われたとおり、ルームサービスメニューから二人分の軽食セットを頼み、やっと自分のスマホで曜日と時間を確認するまで思考が正常に動き出す。
なんどか画面を見直すも、やはり今日はテスト返却日、つまり昨日からたった一日しか経ってはおらず、時間にいたっては午前11時頃である。
自分は馬鹿だと充分自覚しているつもりだが、テスト明けの翌日に宿に着くとはどういうことだ。おまけにホテルなどの宿泊施設を利用したことはないけれど、チェックインがこんなに早くて大丈夫なのか?
「なに突っ立ってんだ。頼んだのか?」
「え、あ、うん。これ、この軽食セット頼んだ」
いつのまにか戻っていた玲央が俺のすぐ後ろからメニューを覗き込む。くらりと眩暈を覚えるような香りに包まれた気分になって、思わず肩がびくりと震えた。
「あのさ、玲央」
「あ?」
「その、これって旅行なんだよね? ここって宿でしょ? 早くない?」
言いながら振り返る。思いのほか近くにあった顔に後ずさると、知らぬ間に腰を支えていた玲央の手がそれを拒む。
「最近色々あっただろ。本当は遊園地にでも連れて行くべきなんだろうけどよ、俺はお前とゆっくり過ごしたい。嫌か?」
「……いや、じゃない……けど」
「けど?」
「…………やじゃない、です」
なぜかコクリと頷きながらそう言うと、玲央は目を細めて「当たり前だろ」なんて軽口をひとつ。
ちょっとついていけない展開に戸惑う頭はしかし、玲央の微笑みひとつで納得してしまうのだった。
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