――ぴーひゅるる。
なんて鳥の声だろうそれを耳にしながら、俺は口から抜け出しそうな魂(らしきもの)をゴクリと飲み込む。その拍子で持っていた鞄がどさりと音を立てて床に落っこちた。
「なにしてんだお前」
「……玲央」
テストが返却され、志狼に告白を受け、巴さんに感謝して、豹牙先輩に悪戯をして帰った日。あのまま玲央のベッドで眠りこけていた俺は、いつのまにか帰って来ていた玲央に今朝起こされ、そのまま流されるように飛行機に乗り込んで、それからまた流されるように送迎用の車に押し込まれ、今、都会の喧騒とは無縁な自然の中にいる。いや、自然の中に建つ宿の中にいる。
今朝、起きて一番に渡された(なぜか荷物が詰め込まれた)鞄を抱えてから働かずにいた頭が今、やっとキュルキュル音を立てて動き出す。
「あの、ここ……なに?」
「旅行するって言っただろ」
「え、いや。それは聞いたけど、テストが返ってきたのは昨日で……うん? 昨日、だよな?」
「お前大丈夫か?」
いや、正直大丈夫じゃない。
一度ううんと頭を捻り、目の前で心なしか心許無い視線を寄こす玲央に向き直る。けれど俺の頭上から三つほど連なったクエスチョンマークが消えることは無く、降参とばかりに縋った視線を送り続けると、ぽん、と髪を乱されて、
「テスト、よく頑張ったな」
なんて多分、労いの言葉を贈られてしまった。
「……なんだその顔」
「ん……どんな顔、してる?」
「馬鹿っぽい顔」
馬鹿っぽい顔!? あまりにも無作法な言い草にムッと眉間にしわを寄せると、玲央はくつくつと笑って俺が落とした鞄を拾い上げた。
「なにも食わねぇで来たから腹減ってんだろ。飛行機でも車でも寝ぼけてたしな」
「ねぼ……」
「そこにルームサービスのメニューあるだろ。適当に頼めよ」
なんて、機嫌の良さそうな玲央は二人分の荷物を持って二階の部屋へと向かっていくのであった。
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