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- ナノ -

24 - 7



俺はそんな巴さんに微笑んだまま、湯気の立つコーヒーへ手を伸ばす。


「ノエルさんが言ってたんですよ。ノアさんが亡くなったことを知らせてくれた人に会いに来たって」

「……」

「でも、話がしたかった、とも言っていました。だから巴さん、ノエルさんには会わなかったんでしょう?」


ゆらりと揺れる湯気が顔にかかる。口を付けたコーヒーの苦みは、不思議と俺を優しく包み込んだ。
俺の問いに答えず黙ったままの彼が、突然自分の前髪をくしゃりと乱す。


「俺はよお、自分が嫌いなんだよなぁ」

「え?」

「嫌いなんだよ、親も、家業も、その息子である俺が、俺は嫌いなんだよ」


なぁ、どうだよ。どう思うよ。
散々馬鹿やって、躊躇なく人も殴れるようになった。力がついて自信も湧いた。女も抱いた。男も抱いた。ろくな人生は望めねぇから親の言うこと聞いて悪事に手を染めた。この手で本物のはじき(銃)を握ったこともある。吸ったことがなくとも麻薬だって目にしたこともある。それに溺れてぶっ壊れた野郎相手に脅したこともある。
でも無かった。目の前で他人が死ぬのを見る様は、今まで一度も無かった。
ついさっきまで辛うじて生きてた男が、家族の名前を呟いてんのに誰も動かずなにもしねぇ。助けようともしねぇ。喉に詰まらせた飯で窒息しかけてんのに、なんで誰も助けねぇんだよ。
なんで、なんで死んだあと、それが当然だって顔してんだよ。可笑しいだろ、可笑しいんだよ。
なぁ、どうだよ。どう思うんだよ。


「そんな糞みてぇな世界で生きてきた俺が、ノエルに会えると思えるか?」

「…………巴、さん」


早口で捲し立てるようなその呟きは、むしろ懺悔にも近い。
色を無くした瞳でこちらを見つめる彼に、俺も豹牙先輩も口を閉ざした。




 


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