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ドクリ。大きく打った鼓動の音がなぜか脳の中から聞こえた気がしてまた、目を瞬く。
そんな俺の姿を見ている豹牙先輩は、やっぱりどこか寂しそうな表情で微笑んだままだ。

静寂に包まれた店内に、ふと扉の開く音が鳴る。扉を背にして座る俺とは違い、そちらを視野に入れる豹牙先輩が目を見開いた。


「なんだぁお前ら、デートか?」


んなわけねぇか、あははっ。と聞き慣れた笑い声に振り向くと、そこに居たのは予想通り巴さんで。
彼は俺と豹牙先輩を眺めたかと思うと、なぜか豹牙先輩を退かせてそこに収まる。不服そうな顔で俺の隣にやってきた豹牙先輩が腰を下ろすと、タイミング良くコーヒーが三つテーブルに運ばれてきた。
その光景に巴さんだけは「相変わらず食えねぇジジイだな」と呟く。


「偶然豹牙のバイクをそこで見かけてよ、なんとなーく小虎が居そうな気がして来てみたら、やっぱり居やがった」

「巴、お前……」

「ったく、どいつもこいつも警戒すんなよ」


ブラックのままコーヒーに口をつけた巴さんに豹牙先輩が口を閉ざす。
俺はそんな二人に苦笑を浮かべ、巴さんに向き直った。


「なにか俺にご用ですか?」

「……あぁ、まぁな」


コーヒーカップを口元に置いたまま、こちらを見つめる巴さんが目を細める。音を立てずにカップを置くと、彼は些か乱暴な手つきで煙草を吸い始めた。


「礼を言いに来た」

「え?」

「あと、理由も聞きに来た」


理由? オウム返しで問う俺に、巴さんが頷く。


「どうしてあのとき、ノエルとの約束を俺に話した」


ぽつりと呟かれた問いに、今度は違う意味で目を瞬かせてしまう。それからゆっくりと口元が緩んでしまい、俺はそのまま微笑む。


「だって巴さん、ノエルさんに会わなかったんでしょう?」


そう言うと彼は目を見開き、文字通り固まった。




 


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