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デートと言ってもそれが冗談であることは分かり切っていたが、連れて来られた小さな喫茶店を前に訝しむ。行先はなんとなくデスリカだと思っていたが、そうではないらしい。
中に入ると客の数は少なく閑散としている。バーカウンター内にいる初老の男性は豹牙先輩を見ると緩やかに微笑んだ。


「小虎、ほらこっちに座れ」

「あ、はい」


慣れた様子で窓際のテーブル席へ促す豹牙先輩に従う。窓際だというのに成長の良い植え込みのせいで景色は悪い。コトリ、置かれた水の入ったコップに見上げると、先ほどの男性が柔らかなしわを刻ませて一度、頭を下げた。


「コーヒーで良いか?」

「はい、大丈夫です」


俺の返事を聞いた豹牙先輩がコーヒーを二つ頼むと、男性はもう一度頭を下げてバーカウンターへ戻って行った。そんな男性を目で追う俺とは違い、やはり慣れている豹牙先輩が煙草に火をつける。


「ここな、司たちが高校生の頃、溜まり場にしてた喫茶店なんだよ」

「え? ……へぇ、なんか意外ですね」

「あははっ、だよなぁ」


屈託のない笑みで顔を綻ばせながら、豹牙先輩が続けた。


「でも仁さんがカシストをやっても良いって思った理由がさ、まさにここなんだよなぁ」


と、言われて店内をゆっくり見回す。
なるほど、確かに内装は似ても似つかないけれど、このゆったりと流れる時間で人を受け入れる雰囲気は俺もよく知っている。思わずニヤつく俺に、豹牙先輩が悪戯気に笑った。


「今日は、つーかまぁ、丁度いいと思ったから今日にしただけなんだが」

「はい?」

「そろそろじゃねーかなって、思って」

「そろそろ?」


困ったような、嬉しいような複雑な顔をした豹牙先輩が「あぁ」と頷く。


「俺と小虎の共通点は、弟ってだけじゃねーと思ってんだけど?」


と、続けて言われ、俺は思わず目を瞬いた。




 


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