それからメールではなく、仁さんから電話が入った雄樹はニマニマとやはりアホ面満開で廊下に出た。
俺と志狼は若干冷やかしながら、廊下に姿を消した雄樹をここぞとばかりに肴に飲む。
「でも驚いたな。雄樹もちゃんと将来のこと考えてたんだね」
「あー、うん。なんかでも、ちょっと寂しいかも」
「親心みたいな?」
「あはは。いや、どっちかって言うとお兄ちゃん?」
「あぁ、雄樹の恋人兼保護者は仁さんだもんね」
「そうそう」
俺と同じように、雄樹と仁さんの関係を非難することはなかった志狼が微笑む。
「小虎は?」
「え?」
「将来の夢、小虎にもあるんでしょ?」
「あー……うん、そうなりたいなって夢はあるかな」
将来の夢はある。ここまで言ったのだから続きを言うべきだが、俺はどうしてもそれを最初に言いたい相手がいたので口を閉ざす。
そんな俺に気づいているのかそうじゃないのか、志狼は雄樹が持って来たパーティーサイズのポッキーをかじった。
「俺は医者になりたいなって思ってるんだ」
「医者?」
「うん、普通は喜ばれそうな夢だけどね。ほら、うちってあの人の代から会社経営してるから。両親は継いで欲しいみたいだけど」
「えと、佐代子さんの会社?」
「そう、今はもう祖母さんじゃなくて、父さんの会社だけどね」
医者を目指したいと言う志狼の目は若干伏せられて、いくら両親と和解できても問題はまだ山積みであることを感じ取る。
俺はそんな志狼がかじっていたポッキーの先を摘まみ、パキッと折ってみた。
「小虎?」
「俺、どんな道に進んでも志狼なら上手にこなせるって思う」
「……そう?」
「うん。でも無理してやんちゃしても、俺と雄樹が止めてやる」
「……こと、」
「だからシローくん、今はいっぱいいっぱい悩んで、納得するまで悩んでよ。そんで答えが出たときは、俺と雄樹にも教えて?」
そしたら俺と雄樹が盛大に祝ってやるからさ。そう言って短く折ったポッキーを同じようにかじると、志狼はそっとはにかんだ。
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