「足は一点、腕は二点、腹と背中は三点で、顔面は最高得点百点満点!」
ぎゃははは、汚らしい笑い声が教室の中に響いている。
俺は黒板のほうを必死に向く教師の背中に消しゴムやシャーペン、火のついた煙草が飛んでいくのを眺めていた。
俺と兄が通う高校は馬鹿と不良を集めたような場所で、そこでは生徒が絶対であり、教師たちはイジメにより一ヶ月も持たない……などと言われるほどの最低な学校だった。
実際、一ヶ月で辞めるやつもいれば、何年も続けるやつだっている。
しかし世の中というのは悪評のほうが人の耳に残りやすく、風に乗るよりも早く伝わってしまうものだ。
つい先日辞めた教師の代わりに赴任してきた英語の教師の震える肩を眺め、俯く。
馬っ鹿みたい。どいつもこいつも、馬っ鹿みたい。
「つーかてめぇよぉ、早くこっち向けっつーの。百点取るまで終わんねーんだからよー」
クラスの誰かがそう言うが、英語の教師がその言葉でこちらを振り向くはずもなく、痺れを切らした数人が教師の腕を掴み、廊下へと出ていく。
すぐに叫び声や笑い声がして、俺は見てもいない廊下でなにが行われているのかを理解した。
この高校は……暴力が絶対なのだ。
親父の死を境にこの高校に転入してきた俺も当初はその対象だった。
しかしいくら殴ろうが蹴ろうが声も上げず、抵抗すらしない俺の反応がつまらなかったのか、生徒たちはすぐ俺から違う人へ標的を変えたのである。
新しい標的には悪いが、助かったと思う。
「トラちゃんトラちゃん」
「ん? あぁ……なに?」
俯いたまま寝てしまったのか、いつの間にか昼になっていた教室はクラスメートもまばらに、みな惣菜パンやコンビニ弁当を広げて談話している。
俺は声をかけてきた人物のほうに顔を向け、眠い目を擦った。
「あんね、ここの敵の倒し方分かんないの」
「どれ? ……あー、これはさ、五回体当たりしてきたら下にくるから、体当たりを避けて、下にきたときに集中攻撃すりゃいいよ」
「んー、分かった。さんきゅーね」
「んー」
← →
しおりを挟む /
戻る