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――ガンッ!

朝から大きな物音を立てて、ヤニで汚れた壁に俺の体は打ち付けられる。
一番打撃面積の広い肩からは刺すような痛みが広がった。


「俺がいるときに出てくんな、目障りなんだよ」


金髪サイドバックの髪型をばっちり決め、同じ親から生まれたとは思えない恐ろしく整った顔に闇を宿らせながら、兄はそう言った。
俺は返事をする元気もなく、ただただその端正な顔を眺め、必死に浅い呼吸を繰り返す。
それが勘に触ったのか、兄は舌打ちをこぼすなり、さっさと玄関から出て行った。


「……はぁ」


兄が消えて空気が軽くなった部屋でため息をこぼす。

――親父とお袋は別に仲の悪い夫婦ではなかった。らしい。
だけど兄の非行から、その仲は一変した。
親父は兄の存在を早々に否定し、嫌うことで自分のプライドなんかを守ろうとしたが、お袋は兄を見放すことなく、最後まで必死に面倒を見続けた。
……たとえ、家庭内暴力があったとしても、だ。

『本当は悪い子じゃないんです』
『ただ、ちょっと不器用なだけで』
『だって、毎日帰って来てくれるんです』

そんな言葉を壊れたラジオのように繰り返していたらしい。

だがそんなお袋にも限界はあった。それは精神的でも金銭的でもない。そう、肉体的に、だ。
もともとキャリアウーマンで高給取りだったお袋はぶっ倒れたのだ。原因は疲労。

それを機に入院したものの、自分が働かなければ兄を食わせていけないと、ふらつく足取りのまま仕事を続けた。
……それがいけなかった。お袋は信号待ちの横断歩道で軽い貧血を起こし、車道のほうへと倒れる。運悪くやって来たのは大型トラック。

親類たちは一様に兄を責めた。お前が母親を殺したのだ、と。

そしてお袋の葬式にすら現れなかった兄は、以前よりその凶暴な性格に磨きをかけた……らしい。


というのも、それらはすべて兄を忌み嫌う親類たちに聞かせてもらった話であり、真実かどうかも分からない。
なんせ、俺はお袋の葬式にすら呼ばれなかったのだから。

お袋と兄が俺の知らないところで暮らしていたように、俺もまた、親父と誰も知りえない生活を繰り返していたのだから。
酒と煙草と罵声と、表面だけのいい親父から受ける――家庭内暴力の日々を。




 


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