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「……あ? んだ、これ……」


自分の意志ではないそれに手を伸ばして確認した巴さんは、茫然とそれを眺めてからおもむろに目を伏せる。パタリ、とまた水滴が溢れた。


「行け」

「え?」

「もう行け。早く帰れ……引き止めて悪かったな」


巴さん、と呼ぼうとした声を飲み込む。今、彼がいる世界に俺や玲央の居場所はない。そしてそれを、俺も玲央も望んではいない。
手を繋いだまま歩き出す俺たちが、動かない巴さんの横を通り過ぎる。


「……巴さん」


けれど慰めを言うつもりはない。謝罪も感謝もお門違いだ。
俺は足を止めて、振り返った。


「ノエルさんはまたお粥を食べに来てくれるって、俺と約束しましたよ」


動かずにいた巴さんの肩がぴくりと揺れる。けれど俺はすぐに向き直り、繋いだ手を離さないまま歩き出した。
後ろのほうで誰かが泣く声が聞こえた気がしたけれど、俺も玲央もなにも言わず、ただ歩みを進める。
そうしてしばらく無言でいた帰路で、ふいに玲央が笑った。


「玲央?」

「いや、少し気が晴れた」

「気が晴れた?」

「あぁ、俺が一番敵視してたのは巴だからな」


それは初耳だ。思わず凝視する俺に、笑いが止まらないのか玲央は咎めるように前髪をぐしゃぐしゃと掻き乱してくる。


「あいつの実家がなにしてんのかは知ってるか?」

「うん、さっき仙堂さんに……今回のこと、ちょっと聞いた」

「さっき巴は復讐だって言ってたけどよ、それは親のためとは思えねぇ。そもそも家業自体、あいつは嫌ってたしな」

「じゃあ、今回巴さんがこんなことした理由って……」


自分で乱した髪を丁寧に整えて、その手で頬を撫でてきた玲央が不敵に微笑む。


「どっかの性悪が馬鹿するような理由と、似てんじゃねぇの?」


それを聞いた瞬間、脳裏に浮かんだノエルさんの笑顔に頬が緩む。いいや、正確には巴さんを突き動かした理由は今は亡き、ノアさんにあるのだろう。けれどこれ以上先を知る必要はない。ただ彼が、彼らを突き動かす馬鹿げた幼稚な理由は、しかし俺の真実と酷似しているのだから。




 


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