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「悪かった。うん、俺が悪かったな。けど弁明させてもらうが、俺ぁ唆したんじゃなくてお願いしただけだ」

「お願い?」


巴さんの声に俺が反応すると、玲央は横目でこちらを射抜く。咎めているわけではないが、少し強い視線に笑みを返す。
「そ、お願い」呟く巴さんに視線を戻すと、彼は煙草を咥えて火をつけた。


「迷惑かけといてそりゃねぇだろって思うかもしんねぇけどよ、詳しくは語れねぇ。そこまで言っちまうと俺はお前らを襲わなきゃいけなくなる。分かるな?」

「……」

「まぁ、なんだ……これはただの、復讐だった。うん、復讐だったんだ。俺一人じゃ到底太刀打ちできねぇ相手に、俺は司に協力を求めた。唆した、つもりはねぇけどその相手が司にとっても復讐すべき相手であることを煽ったのは確かだ。そのせいで……まぁ、随分と大事になっちまったけどな」


ははは。笑う巴さんの口から煙が漏れる。澄んだ空気に溶けていく様は、どこか悲しい。


「巴さん」

「うん?」


だから、だろうか。その様があまりにも悲しいから、だろうか。


「泣いてもいいんですよ?」


気がつくと俺の口からはそんな言葉が零れ、それを耳にした二人は目を見開いた。ただでさえ静寂な世界が一層音を無くして彷徨う。けれど、不思議と今は寂しくない。


「辛い時や悲しい時、嬉しい時だって泣いてもいいんですよ。そうじゃなきゃ、自分が今なにを感じてるのか、忘れそうになるでしょう?」

「…………」

「だから巴さん、泣いてもいいんですよ?」


玲央の後ろから踏み出して、そおっと巴さんに近づいていく。けれど玲央の手が離れることはなく、俺もそれ以上前に進む気はないので歩みを止める。
そんな俺を見ていた巴さんは、大きく見開いた目からふいに、ポロリと水滴を溢した。




 


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