先に帰ったはずの巴さんが、まるで俺たちを待っていたかのように立ち塞がる。その姿に疑問を持つ俺とは違い、玲央は怒気を孕んだ声で「何の用だ」と唸る。心なしか、俺を守るように前に立つ姿にさらに疑問が膨らんだ。
「警戒すんなよ、襲ったりしねーって」
「……」
「や、なんつーか、あれだな。悪かった」
悪かった。恐らく謝罪だろう言葉を放った彼は、こちらに頭を下げる。
これには玲央も予想外だったのか、一瞬言葉を失うもやはり警戒は解かない。
「お前らには特に迷惑かけただろ? や、小虎に、か? まぁだから、悪かったな」
「……」
「おいおいだんまりかよ。なんか言ってくれや」
カラカラ。一人笑う巴さんの声が、静かな住宅街に響く。その反響は寂しく消えた。
「司を唆したのはてめぇだろ」
「うん?」
明け方の冷めた空気に玲央の怒気が交わる。それを正面から受ける巴さんは顔色一つ変えず、微笑んだ。
「どうやったのかは知らねぇが、あの司が一時でも豹牙を置いてくことを考えたんだ。どう考えたって誰かが、てめぇが唆したに決まってる」
「そんなの決めつけんなよ。司だってそりゃ理由があれば豹牙を置いてくことも考えるだろうさ」
「んなわけねぇだろ」
「おいおい玲央ぉ、てめぇの価値観押し付けんなや。司の気持ちが、てめぇには分かるってか?」
「あぁ、分かる」
「はぁ?」
淡々と続く会話が途切れる。俺はこちらに背を向ける玲央を見つめながら、繋いだままの手をもう一度、強く握った。
「俺と司は、兄貴なんだよ」
「…………お前、」
明け方の空気に負けないくらい、どこか清らかで有無を言わせない絶対的な真実。倍の力で俺の手を握る玲央に、そっと微笑んだ。
玲央の言葉を聞いた巴さんはしばらく呆けていたが、なにかを思い出したように笑いだすと、降参と言わんばかりに両手を挙げた。
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